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Connection〜コネクション〜

作者: 神崎慧

この小説はフィクションです。


 すべては無から生まれた。

 昔の人がそんなことを言ったらしい。

 だけどそれは間違いだと、俺は思う。

 有は有からしか生まれない。

 無から有は生まれ得ない。

 それはたとえば、有から無が生まれないように。




 繰り返しの日々。

 そんな日常は、だけど決してイヤな訳じゃない。

 嫌いになんてなれない。

 だってそれは、幸せな日々なのだから。

 いつものように彼女を含めた仲良しメンバーと朝の挨拶を交わして席に着く。

 授業中におしゃべりしたりして、先生に見つかって怒られる。

 昼休みになればみんなで一緒にお昼御飯を食べて、他愛のない話で笑い合う。

 放課後になってもしばらくは教室で雑談したりして過ごし、彼女とは途中まで並んで帰る。

 そんな日常はとても幸せで、だからそんな日々が俺は大好きだった。

 そして、こんな風に幸せな日々がずっと続くのだ。

 そう、思っていたんだ。



 だけどそれは、土曜日の夜にかかってきた一本の電話から伝えられた用件に、簡単に崩れさってしまった。

 彼女が交通事故に巻き込まれた。

 それを俺に伝えてくれたのは仲良しメンバーの一人で彼女の親友だった。

 この手の冗談を嫌うその娘の言葉は、だからこそとても重く、それが事実なのだと理解させられた。

 俺はすぐに外に出てタクシーを捕まえ、伝えられた病院に向かった。



 そして俺が緊急手術室の前に着くと、仲良しメンバーのみんなと彼女の両親、そして多くの知らない人たちが集まっていた。

 その顔に浮かぶのはかすかな希望と、強大な絶望。

 俺は仲良しメンバーのいるところに行って、現在の状況を聞いた。



 彼女が巻き込まれた事故は、俺が思っていた以上に大規模なモノだった。

 飲酒運転していたという一台の車によって引き起こされた、車五台と通行人四人を巻き込んだ玉突き事故。

 たくさんの人が病院に運ばれ、今までの間に数人の死亡が告げられたのだそうだ。

 そこまでの説明を聞いたとき、緊急手術室の扉が開いた。

 そして、悔しそうな顔をしたまだ若い感じの医者が、彼女の死亡を告げた。

 それは、どこか遠くの世界の出来事のような、そんな現実味の乏しい事実。

 それは、信じるとか信じないとかじゃなくて、信じたくない現実だった。

 決して受け付けられない、異物だった。

 この世界は夢なのだと否定して、世界のことを拒絶した。

 それからどうしたのか、よく覚えていない。

 緊急手術室の前にいたはずなのに、気が付くと学校の校門の前に立っていた。

 いつもの俺なら、夜の学校に恐怖を覚えたかもしれない。

 だけど、今日は違う。

 ここは彼女との思い出が詰まった、宝箱アルバムのように思えた。

 そのまま門を越えて中に入る。

 少し前に誰かに教えてもらった廊下にある鍵の壊れた窓から侵入して、自分たちの教室へと向かった。



 教室の電気をつけて自分の席に座る。

 彼女の席を見ると空席で、そのことに寂しくなった。

 彼女の机まで歩き、それを触る。

 それをしたことで、彼女の死亡が現実味を増した。

 何でこんなことでそう思うのかなんて分からない。

 だけど、そうなった俺には、溢れる涙を止めることは、出来なかった。



 彼女のことが好きだった。

 今まで伝えたことはなかったし、これから伝えることも出来なくなったけど、彼女のことが大好きだった。

 とても明るく笑う女の子。

 それが、彼女の第一印象だった。

 サバサバした性格で、男女関係なく話をする彼女は、どちらかと言えば男友達のような感じだった。

 彼女を中心にしてクラスメートはまとまり、俺を含めた仲良しグループが作られていった。

 そうして過ごしているうちに少しずつ仲良くなっていった。

 そして、彼女のことが愛しいと思い始めたきっかけは、朝の教室だった。

 たまたま早く来た俺は、彼女が泣いているところを見てしまったのだ。

 見つかっちゃったね、なんて言って涙を拭いながら弱々しく笑う彼女を見たあの時から、少しずつ彼女のことを意識するようになっていったのだ。



 次の日の学校は、やっぱりどこか現実味がなかった。

 彼女のことが朝の集会で伝えられ、クラスに戻ってからは担任の先生からそれについての話があった。

 俺はその話を彼女の席に目を向けながら聞いていた。

 いや、聞き流していた、の方が正しい気がする。

 彼女のいない世界というのは、今の俺にとってなんの魅力も感じられなかった。

 色のない世界、と表現されるモノを、俺は今、感じていた。

 説明が終わると、これからクラス全員で葬式に行く、と言う担任の言葉で、みんなで歩いて彼女の家を目指した。



 彼女の葬式は、ドッキリなんじゃないかと疑うくらい、盛大な儀式だった。

 葬式を表現するのに盛大というのは間違っているような気がするけど、この場合はそれで正しいような気がした。

 確かに、そこにいる誰もが彼女の死に悲しみ、涙していたけど、それでも彼女を安心させるように、最後の方は思い出話で盛り上がって、彼女の冥福を祈った。

 やはり彼女は、自分の周りの人たちに、たくさんのモノを与えていたらしい。

 彼女は人と人とを繋ぐ糸を作り出すことが出来るのかもしれない。

 そう思えるほど、彼女はみんなを繋いでいた。

 俺たち仲良しグループやクラスメートを繋いでいたみたいに。

 俺は外に出て、空を見上げながら目を瞑って、心の中で彼女に話しかける。

 今まであったことを思い返しながら、たくさんの気持ちを伝えていく。

 そして最後に、伝えられなかった想いを言葉にした。

 胸からあふれ出るようにこみ上がってくる涙と嗚咽を出てこないようにこらえる。

 目を開けると、昨日までの曇り空が嘘のように、青く晴れ渡っていた。

 まるで、彼女が笑うときのように、キレイに。





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