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変わり始める関係

タイトル戻しました。本当、ごめん。なんでもするかは怪しいけど許して・・・

 一週間の部活禁止を終えた日の朝、いつもの時間に目を覚ました。ここ数日、あまり気持ちよく寝れていない時間が続いていて、おかげで今日も少しだけ寝不足だった。それでもいつもの調子で目は覚めるのだから、人間の習性ってものは凄いものだと思った。


 母はまだ起きていなかった。パートに向かうのは昼過ぎ。いつも大変な思いをしているのだから、なるべくゆっくりして欲しい限りだ。


 食が一層細くなっていて、軽く用意したご飯は喉を通らなかった。貧血気味で、眩暈を覚えながら家を出た。


 七月に入りそうなここ最近の外は、朝方であるからか少しだけ涼しかった。肌寒いなと思いつつ、温度環境の整った電車に飛び乗った。

 寝不足を解消するかのように、電車の中で座席に座り、目を瞑った。幸いにも始発の車内は、そこまで混んではいなかった。


 ガタンゴトンと揺れる電車の固いシートの寝心地は良くなかった。眠りも浅く、目的の駅に辿り着いたらむしろ余計に体調は悪化した気がした。


 あくびをかまして、歩調緩く学校へと入った。


 実に一週間ぶりの早朝練だった。

 部活禁止を命じられたこの一週間も、自宅での早朝練、深夜練習には取り組んでいたが、こうして学校でトランペットを吹けるのは久しかった。


 あの日、部活禁止を命じられた僕の行いも、この一週間で反省も含めて乗り越えられた。


 ただ一つ、憂いていることがあった。

 それは勿論、夏菜さんとの関係だった。


 あの日、夏菜さんに避けられた日以降、僕は夏菜さんとの会話の機会を設けることが出来ないでいた。


 勿論、あの日避けられたことで彼女との会話の機会を設けることを諦めたわけではなかった。あの日以降も、度々彼女の教室に行っては、彼女に避けられる日を送っていた。

 我ながら粘り強く行動を起こしているのだが、ずっと彼女は僕と話してくれようとしないのだ。


 頼みの吉田さんも、


『大丈夫なんじゃない?』


 初日以降は、何故だか僕への協力をしてくれなくなった。曰く、心配ないらしいが……こうして口も聞けない状態にそんな呑気な感想を僕は抱けずにいた。


 そんなわけで、粘り強く会話の機会を探し避けられ続けて……成果なしで今日が訪れた。


 今日は僕にとって、一週間ぶりのまたとないチャンスであることは言うまでもなかった。

 部活禁止が解けた初日の早朝練。前までの夏菜さんと僕との、唯一の交流の場。


 だから多分、もし今日ここに夏菜さんが来なかったら……僕は心が折れると思う。

 なんとか夏菜さんに、来て欲しい。心からそう思った。


 どうやら一足先に学校に辿り着いた僕は、トランペットを吹き始めた。僕はここにいると主張するように、吹き始めた。

 

 ただ、トランペットを吹いていると……。

 家で吹くよりも、学校で吹くトランペットは音色が反響し、どうしてかとても心地が良かった。

 胸にしこりのように残るざわめきも忘れて、僕は自分の奏でる音色に、いつの間にか耳を傾けるようになっていた。


 久しぶりに心置きなく練習が出来る。

 意外にも、この一週間で僕はストレスを溜めていたらしい。


 勿論、家に帰れば練習をしていたし……この一週間の間、まったくもって練習をしてこなかったわけではなかった。

 しかし、部活禁止という心に残る直接的なしこりもあり、雑念が消えなかったのだ。


 その雑念も消えたら、思いの外いつもよりも憂いなく音色に集中出来た。


 さっきまでの大きな悩みも忘れて、現金にも音色を響かせていた。


「……あの」


「うわあっ」


 ひとしきり吹き終えたところで、僕は声をかけられた。集中していたばっかりに、僕は大きな悲鳴を上げていた。

 いつの間にか背後にいたのは、夏菜さんだった。


 実に一週間ぶりの会話。

 夏菜さんは、怒っているような、照れているような。とにかく形容しがたい顔で、俯いていた。


「……あ」


 そんな夏菜さんとの久しぶりの対話に、僕は言葉を発することが出来ないでいた。事前に、夏菜さんとはどんな会話をすれば良いのか考えていたのに……。

 いざ実践の場、僕の机上論は碌に役に立つことはなかった。


「……おはよ、ひ、久人君」


「お、おはよ……」


 幾ばくかの違和感を覚えたが、そんなことを気にする余裕はなかった。

 朝の挨拶。

 そこからの、無言。


 何か言わねば。

 何か、言いたいことがあったはずだったから。


 言いたいこと、何だったか。


 ……ひとしきり緊張し、取り乱して……僕はようやく、思い出した。


「ご、ごめん……」


「え?」


 頭を下げた僕の頭上から、夏菜さんらしくない戸惑うような声が漏れた。


 罪悪感が、胸に広がった。


「……あんなに大勢の前で、君と嶋田先輩の関係をばらすことへの助長をしてしまった。だから、ごめん」


「……ああ、そんなこと」


 僕の誠心誠意の謝罪は、どうやら夏菜さんの心に響かなかったらしい。

 こうなったら、どうすれば良いのだろう。

 謝り続けるしかないのだろうか。関係は修復出来ないのだろうか。


 不安から、泣きそうな気持ちだった。


「……気にしないで、久人君」


「でも……」


「隠し通すのは難しい話だったもの、最初から」


 そういう夏菜さんの声は、随分と割り切りが良かった。


「出来れば他言はしてほしくなかったけど……。ほら、あたしおっちょこちょいじゃない。どうせその内、バレるだろうなって思ってた」


 そう言えば、そもそもあの連中に夏菜さんと嶋田先輩の関係がバレたのは、配慮の欠けた夏菜さんの一言からだったらしい。


「だから気にしないで。遅かれ早かれ、こうなる顛末だったはずだから」


 夏菜さんは、いつもより覇気なく僕にそう言った。

 その言葉は、僕にとったら励ましの言葉で、慰めの言葉で。とてもとても、身に染みる言葉だった。


 多分、他の人ならこれで良いと思った。

 許しを得た。だからもう、この話は終わりだと思えた。


 しかし、こと夏菜さん相手に……僕はそこまで割り切ることは出来なかった。


 いっそのこと、断罪して欲しかった。

 僕の失敗を断罪して、それからしばらくの間疎遠になって……時間をかけて許して欲しかった。


 それくらいの失態をしたんだ、僕は。

 だって、一歩間違えれば彼女は、あの連中以外にもイジメられた結果になりかねなかったのだから。


 夏菜さんと嶋田先輩の関係を冷やかす連中を産んで、何らおかしくないことをしたのだから。




「僕のしでかしたことは、そんな簡単に許される行いじゃないだろうっ」




 気付けば僕は、泣きながら激情のまま、夏菜さんに迫っていた。


「へっ!?」


 泣きながら、何かに駆られながら夏菜さんの手を握ると、夏菜さんから驚愕と言いたげの声が漏れた。


「もっと断罪してくれよ。もっと責めてくれよ。そんなどうでも良いみたいに言わないでくれよっ」


 見る見る、夏菜さんの顔が真っ赤に染まっていった。

 燻らせていた怒りの感情を、解き放ってしまったのかもしれない。


 我ながら、馬鹿な行いをしたと思った。

 しかし、一週間も口を聞いてくれなかったのだから、夏菜さんの今日までの怒り具合は最早僕なんかでは想像にも及ばないレベルにまで達しているはず。


 それなのに、こんな呆気ない幕切れ……。

 見切りを付けられたみたいで、とても我慢ならなかった。


「ごめん。ごめん。……もう絶対にしない。だから、すぐに許してくれなんて言わない。時間がどれだけかかっても構わない」


「あわわわわ……」


「だから償わせてくれ。お願いだ。……お願いだよっ」


 必死の懇願だった。


 夏菜さんは、顔を真っ赤にし、口をわなわな震わせて、目を回していた。


「ご、ごめんなさいっ」


 そうして、僕の手を振り解いて去っていった。


「……あ」


 どうやら、相当夏菜さんに嫌われたらしい。


 僕は肩を落として、仕方なくトランペットを再び吹き始めた。さっきまでと違い、僕の奏でる音色は……まるで土砂崩れ後の川の水のように、淀んでいた。

20話もかけて、ようやく主人公が主人公らしくなってきた!

鈍感ツンデレマイペースポンコツ甘えたがり庇護対象女々しい他己的ストイックバカ主人公の完成や!

評価、ブクマ、感想よろしくお願いいたします。

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[良い点] ええやん(語彙力)最高やん(語彙力)
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