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ショートショート2月~

み ま し た ね ?

作者: たかさば

ちょっと閲覧注意

「ひゃあ!!あなた、何見てんの!!!」


「・・・はい?」


皮膚科の病院の待合室で、時間がかかりそうだなあと思って動画を見ていたら、いきなり罵声を浴びた。


「ええと、動画ですけど。」


私のスマホに映し出されているのはアシナガバチ。


わりと、いやかなり昆虫好きの私は、虫系の動画チャンネルが大好きで、隙があればチェックをしているのだ。


ハチの世界の容赦ない感じと持ちつ持たれつの感じ、愛情深い感じに使命感に燃える感じ、ムム、語り出したらきりがないぞ、とにかく私はハチの動画を見るのが大好きで…ああ、幼虫の画面に変わった。


育房にみっちり埋まってるぷりっぷりのハチノコの愛おしさよ…。


「そんな気持ちの悪いもの見て!!!信じられない!」


やけに化粧くさい女性はプンプンしながら遠くの席に移動していった。

…あんなにゴテゴテに化粧して皮膚科かあ、皮膚強そうなのにな。


ああそうか、怪我でも皮膚科に来るか、そんなことを考えていたら名前を呼ばれたので、私はスマホをしまい込んで診察室へと入った。




薬局で薬をもらい、八百屋に寄ってネギとジャガイモを買って帰宅した私はキッチンへ。


今日の晩御飯は牛筋の煮込みとじゃがバター、白菜のくたくた煮に叩きキュウリ。


牛すじの煮込みには茹で卵を入れることを忘れてはならない。こんにゃくにごぼう、…今回はダイコンではなくて人参を入れようかな、明日はおでん作りたいし。


下処理をテキパキやって、ジャガイモを蒸し器に入れ、白菜を土鍋に入れ、寸胴に牛筋セットを入れ三口コンロに火をつける。


キュウリを叩いて、特製ダレと角切りチーズと一緒に袋に入れて、軽くもんで冷蔵庫へ。




よーし、あとはしばらく煮込みタイムだ。

ぐつぐつ煮込んでいる間、動画でもみようかな、ふんふん♪


猫を膝にのせつつ、ソファにもたれかかって動画をチェック。

…おお、新しい動画配信されてる、まさかの0視聴だ、よーしさっそく見ちゃお。

1コメ入れちゃおっかなー。



「うわ!!!なにみてんの?!」


娘の声ではっと我にかえる。


「こわすぎる。」


息子のドン引きした声に、スマホをのぞき込まれた事実を知る。



「み――た――な――!!!」



くそう、動画に夢中になりすぎてて背後に迫る子供たちに気が付かなかった。


私はあわてて、視聴途中の動画を閉じて、キッチンに向かい!!

ああ、ちょうどタイマーが鳴りそうだ、もうリセットしちゃお。


ぴーぴぴー!


おお、ごはんも炊けた、よし食卓の準備準備…。


「ねえ!!いつもあんな動画見てんの?!怖すぎるんだけど!!」

「ああもう、うるさいなうるさいうるさい、はよ手洗ってこい!」

「洗った…。」


テーブルを拭き始めた私に子供たちが絡んでクール―!


…くそう、見られた動画がヤバかった。


私が見ていたのは、実にこう、目が離せなくなるタイプの、深追いしたくなるタイプの、動画でして―!!


「なんでニキビ潰す動画見てんの!」


そう、私はニキビを潰す動画がね、好きでね、それはもう、好きでね、マイクロスコープ動画がそれはもう好きで好きで、あまりにも好きすぎて、形成外科のチャンネルを登録するぐらい好きでね…。


「だってさ!干からびた自分にはもうニキビの一粒も存在してないからさ!!追い求めちゃうっていうかさ!求めて見つけたらさ、つぶしたくなるじゃん!つぶせないからこそ、誰かの潰す画面が恋しいじゃん!一回見たら絞り出し切るまで見届けないといけないじゃん!出し切る過程には少々の出血も止むないじゃん!血が出たら止まるまで見守らないと後味悪いじゃん!きちんと縫うまでが動画視聴なの、わかる?!」


「わからない…。」

「ねえ、この人何言ってんの!!ウケる!!めっちゃごまかしてる!!」


私は都合の悪いことやごまかしたいこと恥ずかしい気持ちがあふれ出ますとね、普段の寡黙さが嘘のように饒舌になりましてですね!!!


「ああもう!!うるさいな!!適当なこと言ってんだよ!!」


テーブルをきれいに拭き終わって、出来上がったおかずを鍋ごとどかどかと並べながら、どうにかして話題を変えたいと策を練る。


くそう、なんで今日はやたらとスマホをのぞき込まれてしまうのか。

そもそも人のスマホを覗き見るだなんて大変に失礼な話じゃあるまいか。


ものすごい画像だったりしたらどうすんだ。


「ただいまー!アッ!!今日牛すじ?!わーい、食べよう食べよう!!」

「ちょ!!手を洗え、指でつまんで食うな!!汚い服を脱げえええええ!!!」


騒いでいたら旦那が帰ってきた。よし、この騒ぎを収束させるチャンス!


「ねえねえ聞いてよ、お母さんニキビ潰す画像見てたんだよ!!」

「また?!お母さんそういうの大好きなんだよ、知ってる?この人昔のパソコンにさあ…。」


「ちょ!!!!!!!」


収束どころかほじくり返されるパターンだ!!!


「これ以上の会話はおいしいご飯を損ねるので、続きが話したい皆さんはご退場願います!!!」


「食べていい?」


無口な息子は食べていい!!


「はい、お食べなさい。」


息子はご飯をどんぶりに入れて、牛すじをモリモリとのせている。


「君らは晩飯抜きでいいんですね、ハイわかりました、残念ですねえ、このとろっとろの牛すじ、味の染み込んだたまご、ごはんに合う、合い過ぎる極上のおかずが一口も食べられないとは!気の毒、気の毒すぎる、気の毒な皆さんに朗報です、あんたらはキモい話するのに忙しいでしょ、了解しました、心行くまでお話しなさい、ウマいもんは全部食べとくから安心してください、ええ、そりゃあもう全て私が食らいつくしてくれよう!!」


私はじゃがバターの器の横に牛すじを盛りつける。一緒に食べると美味いんだわ!!そうだな、うまい酒も出すか!!私は冷蔵庫に冷やしてある、ちょっといいあわあわの缶を取りに行って…ぐふふ!


「相変わらずものすごいごまかし方するなあ、お母さんは…この人いつもこうなんだよ、昔もさあ…。」


「あたしもういいや、いただきまーす!」


娘はお皿に牛すじをたっぷりよそって、ごはんも用意しないでがっつがっつと食べ始めた。


「ああ!!ずるい!そのでっかい肉お父さんの!!!」




ぷしゅ!




私があわあわの缶を開けるころには、家族はもうすっかり怪しげな動画の事を忘れて、テーブルの上のおいしいご飯に夢中になっていた。


あわあわの缶を3本ほど開けた後。


私は…、自分が何にイライラしていたのかを、すっかり忘れてしまったので、あった。



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― 新着の感想 ―
[一言] てか、なんて動画見てるんですかー。 私も、虫の動画は見たことあります。蜂とかは、怖いもの見たさですよねー。実際に飛んでるのはダメですが、動画なら大丈夫かなぁ〜とも。
[良い点] 牛スジ美味しそうです! いいなぁ…… 作ってほしいなぁ……←自分で作るという発想はないw なんだかんだ言っても仲良しな家族のやりとり、ほっこりしました。
[良い点] リズム。なぜか読みやすい。ぬぁぜだ。七五調に近いのか? [気になる点] むむむ、炎上の止め方がうんまい [一言] プシュッ ぐびぐび ぷはーッ うへうへ ぐでーー
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