義姉と義弟はパーティーに行く7
ナイジェルにいくつかサンドイッチを食べさせ終わった頃。わたくしは疲れ果てていた。
ナイジェルの唇や舌でさんざん肌に触れられ、妙なことばかりを言われ……。短時間で重い精神疲労が積み重なってしまったのだ。
サンドイッチがなくなりお役御免になったはずのわたくしの手は、ナイジェルにしっかりと握られたままだ。そして反対側の手は……イルゼ嬢に握られていた。
――この状況は、本当になんなのかしら。
ちらりと横目でナイジェルを見れば、にこりと上品な笑みが返された。
「ナイジェル、そろそろ手を離してくれない?」
「嫌です」
「どうして……」
「姉様と、離れたくないからです」
指を絡めるようにしながら繋がれた手を持ち上げられ、手の甲に口づけをされる。そして悪戯っぽく見つめられれば、顔がどんどん熱くなっていった。
「もう! 姉にそんな色香は出さなくていいの!」
ぶんぶんと手を振り解こうとしてみても、ナイジェルの手は離れていかない。騎士である彼にとって、わたくしの抵抗なんて児戯に等しいのだろう。
「そうですよ。そういうことはお姉様じゃなくて、お姫様にやってくださいよー」
「…………」
イルゼ嬢の言葉に、わたくしはつい沈黙してしまう。
……だって、こんなことをされたら。誰だってナイジェルに夢中になってしまうわ。
エメリナ様とナイジェルの関係は、『個人的』なものなのかしら。それとも……『政治的』なものなのだろうか。どちらにしても、わたくしの分が悪いことには変わりがない。
それを考えると、唇から重い息が零れてしまう。
「姉様。明日のパーティーは……やっぱりテランス様と行くのですよね」
唐突にそんなことを言われ、わたくしは目を丸くした。
青の瞳でじっと見つめられると、なんだか責められているような心地になる。
「そうよ、彼がわたくしの婚約者候補筆頭ですもの」
『ガザード公爵家』の娘の相手としては……テランス様はこの上なく正統な相手だ。
メイエ侯爵家は隆盛を誇っている家で、テランス様は世間でも評判のいい貴公子なのだから。
他の婚約者候補を選ぶ理由も、今のところわたくしにはない。
「わぁ、いいなぁ! テランス様は素敵ですもんね!」
イルゼ嬢が楽しそうに黄色い声を上げる。そんなイルゼ嬢に、わたくしは「そうね」と同意を示した。
「私がエスコートをしたかった」
ナイジェルに切なげな瞳で見つめられ、指先でそっと手の甲を撫でられる。
心臓が大きく跳ね、求められることへの喜びが胸に湧く。胸の内を悟られないように、わたくしは慌てて顔を伏せた。
「そんな馬鹿なことは言わないの。エメリナ様をしっかりとエスコートなさい」
「姉様が……いいんです」
「…………馬鹿ね。本当に、お前は馬鹿だわ」
遠くで、チャイムの音がする。
握られた手の感触。頬を撫でる優しい風。
そして……額に触れる、柔らかな唇の感触。
――唇、の?
「ナイジェル、なにをしているのかしら?」
手でおでこを押さえながら上目遣いに睨むと、義弟は『愛おしげ』と形容しても差し支えのない顔で笑う。
その笑顔は、柔らかく、そして残酷に。わたくしの心を締めつけた。




