義姉と義弟はパーティーに行く6
「それは……いろいろと事情があって」
「わーその言い方も、お姫様に失礼。ナイジェル様、最低」
「ぐっ……!」
イルゼ嬢の歯に衣着せぬ口調に押されたように、ナイジェルは言葉に詰まる。
そして「エメリナ様といい……まったく」と、小さくつぶやいた。
エメリナ様の名前がナイジェルの口から出た瞬間、心がざわざわと嫌な音を立てる。
「……ナイジェル」
「なんですか、姉様」
名前を呼べば、ナイジェルは嬉しそうな顔でぱっとこちらを見る。
その唇の前に、わたくしはサンドイッチを差し出した。
このままパーティーの話が続けば、ナイジェルの口からエメリナ様の話題がもっと出るかもしれない。それを聞きたくなかったのだ。
――ええ、嫉妬よ。醜いわね、わたくしは。
「ナイジェル、早くお口を開けなさい。ほら、あーんするの」
「ね、姉様。その……」
目を据わらせて命令すれば、ナイジェルの瞳が戸惑いに揺れる。そしてその白い頬が淡い朱に染まった。
「姉様の手ずから食べさせていただけるなんて。……いいんですか?」
「――ッ!」
青の瞳に悪戯っぽい光を煌めかせながら、ナイジェルが訊ねてくる。
改めてそんなふうに言われると、自分のしようとしていたことのはしたなさが知覚できて頬がかっと熱くなった。
慌てて手を引っ込めようとしたけれど、大きな手でがしりと手首を掴まれる。そしてナイジェルは、上品な仕草でわたくしの手に握られたサンドイッチを口にした。
「ん……。これは、食堂のものですか?」
「そ、そうよ」
「姉様が食べさせてくれているからかな。いつもより美味しく感じます」
『食べさせている』と言っていいのかしら、これは。
ナイジェルがわたくしの手を使って、食べているだけのような気がするのだけれど!
「ば、馬鹿なことを……! きゃっ!」
食事が進めば、サンドイッチは当然小さくなっていく。
ナイジェルの唇が、白い歯が、紅い舌が……時折わたくしの肌に触れた。
その感触はくすぐったかったり、火傷をしそうに熱く感じたり――心を甘く震わせたりする。
「だ、め。ナイジェル」
「美味しいです、姉様」
「ひゃ! な、舐めないで!」
「ああ、申し訳ありません。姉様の美しい手にソースが垂れてしまったもので。もっと上手に食べないといけませんね」
「く、くすぐったい……!」
肌をちろりと舌が滑り、それは数度繰り返される。
こ、これはわざとでしょう!?
「姉様。もっとください」
あっという間にひとつを食べてしまったナイジェルは、ふたつ目を催促するようにぱかりと大きく口を開く。その頃にはわたくしは息も絶え絶えで、涙目でナイジェルを睨みつけた。
「馬鹿! もう自分で食べなさい!」
「……ダメ、ですか?」
「…………う」
甘えるように言われれば、心がぐらぐらと揺らいでしまうのは……『惚れた弱み』というやつなのだろう。
「…………お姉様をそれ以上困らせるのは、やめたらどうなんですかね」
「姉様は、困っていませんから」
呆れた口調で言うイルゼ嬢にナイジェルはきっぱり言い切ると、また口を開ける。
わたくしはしばらくためらった後に、ナイジェルの口に勢いをつけてサンドイッチを押し込んだ。




