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義姉と義弟はパーティーに行く5

 先ほどまでは、あんなに笑っていたのに。

 なんだか泣きそうな心地になって、つい口元を引き結んでしまう。

 そんなわたくしの表情を見て、ナイジェルはきょとりとして首を傾げた。


「心配してくれるのは、嬉しいわ。……本当よ」


 心配されるのは嬉しい。一番大切だと言われるのも、本当に嬉しい。

 それに勝手に期待し、浅ましいことを考えてしまいそうになる自分が馬鹿なだけだ。


『姉』として、『女性』として。

 ――『どちら』の意味で大切にしてくれているの?


 その一言を発すれば、すべての答えがわかるのに。自分が……こんなに臆病だったなんて。

 綺麗な手が伸びて、優しく頬を撫でられた。

 皮膚同士が触れ合うと肌に熱が走り、頬が朱に染まっていくのがわかる。


「姉さ――」

「ナイジェル、サンドイッチを食べましょう!」


 誤魔化すように明るく言って、イルゼ嬢の手を離しバスケットを手に取ってナイジェルの鼻先に突きつける。するとナイジェルの瞳が大きく開いた。


「サンドイッチ、ですか」

「ええ、とても美味しかったから。よかったら一緒にどうかな……と思ったのだけど」

「ええー。ナイジェル様も仲間に入れちゃうんですか? せっかくお姉様と二人きりのデートだったのに」


 イルゼ嬢が隣で不満の声を上げる。そんな彼女をナイジェルはじっと睨んだ。


「姉様とのデートは、私だけの権利です」

「なにを言ってるんですか。私、ウィレミナ様のお友達なんですよ。その権利はちゃんとあります」


 胸を張ってそう言うイルゼ嬢に、ナイジェルは剣呑な目を向ける。


「誰が姉様の友達だって? イルゼ嬢が姉様のご友人なわけがないでしょう。よくてペットです」

「お姉様自身が、友人だと言ってくださったのよ」

「姉様が!?」

「ふふ、そうよ。イルゼ嬢はわたくしのお友達なの」

「ああもう、なぜそんなことに……」


 ナイジェルは息を大きく吐くと、立ち上がりどかりと丸太に腰を下ろした。そしてわたくしをじっと見つめる。


「姉様」

「なに? ナイジェル」

「……寂しいです。僕にも構ってください」


 真剣な表情でそんなことを言われ、肩口にぐりぐりと頭を押しつけられる。

『私』から『僕』に戻っているわね。大きな体のくせに甘えたいのかしら。

 ハンカチで綺麗に手を拭き、銀色の髪を撫でる。するとナイジェルの唇から気持ちよさげな吐息が零れた。

 ――これは、大きな犬よ。

 そう思い込もうとしても、心臓が高鳴り頬が熱くなるのを止められない。

 義弟の体温、息づかい、甘い香水の香り。そのすべてが心をちくちくと刺激する。


「姉様は、私のものです」

「なにを……言っているの」


 そんなことまで言われ、心臓が破裂しそうな激しい鼓動を刻む。

 ……罪な男というのは、きっとこの子のことを言うのね。


「お姫様とパーティーに行く人がなにを言ってるんですか。浮気をする人に、お姉様を独り占めする権利なんてありませんよ」


 イルゼ嬢があっけらかんとした口調で爆弾を放り込む。するとナイジェルの体がびくんと大きく跳ねた。

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