義姉と義弟はパーティーに行く4
「お姉様。サンドイッチを食べましょう!」
「そうね、食べましょう」
バスケットをずいと差し出され、サンドイッチを手に取る。
お茶会の時に並べられるものと違ってそれがずいぶんと大ぶりで、どうやって食べようかとわたくしは思案した。
フォークやナイフは、バスケットの中にはなかったわよね。
ちらりとイルゼ嬢を見れば、彼女は躊躇なく大口を開けて、がぶりとサンドイッチに噛みついている。そして手についたソースをぺろりと舌で舐め取った。
わたくしは途方に暮れた気持ちで、サンドイッチに再び目をやった。
いつまでもサンドイッチを眺めていても、仕方がないわね。
――郷に入りては郷に従え。
そんな覚悟を決め、わたくしもサンドイッチに食らいつく。
食べづらくてぽろぽろとパンくずが散り、ソースが零れて服に落ちそうになる。こんなお行儀の悪い食事ははじめてで、だけどなんだか爽快な気持ちだ。
「ふふっ」
つい楽しくなって笑うと、隣でイルゼ嬢も楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると、さらに笑顔が湧いてくる。
「……少しは、元気が出ました?」
ごくりとサンドイッチを飲み込んだ後に茶色の瞳を細めながらそう言われ、『友人』の優しさが胸にじわりと沁みた。
「ええ。イルゼ嬢がお友達でよかったわ」
心の底から、そう思う。
なにも詮索することなく、ただ側にいて励ましてくれる。そんな『友人』ははじめてだったのだ。
「お姉様……!」
イルゼ嬢は感激したような声を上げると……わたくしの手を取ろうとしたのだろう。だけどサンドイッチのソースでべたべたの自分の手に気づき、おろおろとそれをさまよわせた。
その様子を見ているとおかしくなって、わたくしはまた笑ってしまう。
ひとしきり笑った後に……わたくしはそっとイルゼ嬢の手を取った。
「よ、汚れますから!」
「構わないわ」
手を取り合って微笑み合っていると、茂みががさがさと鳴る。
びくりと体を震わせながらそちらに目をやると……見慣れたわたくしの護衛騎士が現れた。
「……ナイジェル?」
「姉様! こんなところに……!」
目を丸くするわたくしのところに、ナイジェルは大股で近づいてくる。そしてしっかりと握られたわたくしたちの手を見ると、微妙な顔をした。
「ナイジェル、どうしてここに?」
「その女に引っ張られて教室から連れ出されたとの報告を受けて……探しに来たんです」
「まぁ、そうだったのね」
護衛である彼のところに報告が行くのは、おかしいことではないわね。
だけどどうして、こんなに慌てているのかしら。
「……心配しました」
「お友達と気晴らしをしていただけよ。心配することではないわ」
「それでも、心配しました。あんなことがあったばかりですし」
目の前に跪かれ、青の瞳に見上げられる。真剣な表情で見つめられると、嫌でも心臓が高鳴った。
「私は姉様が……誰よりも大事なので」
――本当に、困った子。
そんなことを、簡単に口にするなんて。
『誰よりも大事』だなんて言われたら、その言葉に縋ってしまいそうになるじゃない。




