義姉と義弟はパーティーに行く1
わたくしたちが寮へと戻ってから数時間後に……襲撃者たちは誰かに毒殺されたと聞いた。
なんとも容赦のない、証拠隠滅だ。ナイジェルはそれを予想していたようで動揺する様子はなく、動揺するわたくしを慰めさえしてくれた。
そして……わたくしとナイジェルが襲撃にあった日から、二週間が過ぎた。
「……はぁ」
ため息をつきながら、開いた本に視線をやる。紙に書かれている文字を目は追うだけで、内容がなかなか頭に入らない。
「…………はぁ」
わたくしはまたため息をひとつつくと、読むのを諦めて本を閉じた。頭に入らないものをずっと眺めていても仕方がない。今は授業の合間の休み時間で、同級たちは集まって主に二つの話題で盛り上がっている。
ひとつ目の話題は、ナイジェルとエメリナ様が明日の夜に連れ立ちパーティーに行くこと。
そのパーティーにはわたくしも招待されており、テランス様とともに参加することになっていた。
想い人が他の女性と参加するパーティーに、想いを告げられている婚約者候補の男性と参加するだなんて……なんとも複雑な気持ちになる。
「ねぇ、ナイジェル様がエメリナ様とパーティーに参加するんですって!」
「まぁ! 婚約はきっと決定的ね。ナイジェル様が今まで、誰かをエスコートすることなんてなかったものね」
「お二人ともまぶしいくらいにお美しくて……本当にお似合いよね」
そんな同級たちの会話を耳にするたびに、わたくしの心は沈んでいく。
ナイジェルは『事情』があってエスコートすると言っていた。
その事情って……婚約に関することなのかしら。
――じゃあどうして、わたくしに口づけなんてしようとしたのよ。
そんな恨みがましい気持ちが胸に溢れる。あれは……過剰な姉弟愛というやつなのかしら。そんなものは、ほしくなかったわ。
エメリナ様とわたくしは持つ色合い自体は少し似ている。
だからこそ……容姿の差が、明確に引き立ってしまう。同じ黒髪を持つのに、あちらは絶世とも言える美少女で、わたくしは凡庸極まりない容姿なのだ。
どんな男性だって『女性』として選ぶのは……エメリナ様だろう。きっと、ナイジェルもそうだ。
わたくしはまた大きくため息をつくと、もうひとつの話題に意識を向けた。
ふたつ目の話題は、ご側室のご懐妊のことだ。
先日ご側室の四年ぶりのご懐妊が大々的に公表され、国中はどこか浮ついた雰囲気である。
――今度こそ、男児かもしれない。
そんな期待を皆が異口同音に口にする。
第一王子殿下は一年の大半を寝台で過ごされており、人前に出ることは稀だ。わたくしの父であるガザード公爵も、昨年ご挨拶をして以来お会いしていないと言っていた。お加減も、やはりよいようには見えなかったとか。
この状況では……後を継いでご公務をというのは難しいだろう。
ご側室のお子が男児ならば。王家の長年の懸案に、ひとまずは決着がつく。
「………………はぁ」
なんともめでたい話題ばかりなのに、わたくしの心は重い。
「お姉様? 元気がないですね」
声をかけられ前を見ると、イルゼ嬢が大きな瞳をぱちくりとさせながら立っていた。




