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義姉は感情を持て余す20

「エメリナ様……!」


 一礼しようとして、わたくしはまだナイジェルの腕の中に囲われていることに気づく。その腕から抜け出そうともがいたけれど、ナイジェルが腕の拘束を解くことはなかった。


「ナイジェル、離して!」

「……離しません」

「どうして! エメリナ様に失礼でしょう!」

「どうしてもです。姉様をマッケンジー卿には……いえ。誰にだって渡さない」

「――ッ!」


 ナイジェルから放たれた言葉の衝撃で、みるみるうちに顔が熱くなる。そして体からは、ふにゃりと力が抜けてしまった。そんなわたくしをナイジェルはさらにしっかりと抱え込み、マッケンジー卿に剣呑な目を向ける。

 マッケンジー卿は、そんなわたくしたちの様子を満面の笑みを浮かべながら楽しそうに眺めていた。

 そして……エメリナ様の表情に浮かぶ不機嫌の度合いは、どんどん濃いものとなっていった。


「ナイジェル、いい加減にウィレミナ嬢を困らせるのはやめなさい」

「姉様は困っていません」


 苛立ちが滲む口調でエメリナ様に言われても、ナイジェルはにべもなくそう返す。

 ……わたくしの心境を、勝手に決めつけないでほしいわ。

 この状況が嬉しいか嬉しくないかなんてことは置いておいて、困ってはいるのよ。


「本当に、大馬鹿」


 エメリナ様は綺麗な指先で額を押さえると、大きなため息をつく。


「まぁ、よくてよ。……用事は済んだのだし。マッケンジー、帰るわよ」

「ったく。ウィレミナ嬢に挨拶をする時間くらいはくださいよ」


 声をかけられたマッケンジー卿は、こちらがハラハラしてしまうぞんざいさでエメリナ様に言葉を返した。

 彼はこちらに歩み寄ると、わたくしの頭をくしゃりと撫でる。それを見たナイジェルがなにかを言おうとしたけれど、マッケンジー卿に強いデコピンをされて強制的に黙らされてしまった。


「では失礼しますね、ウィレミナ嬢。今日はあまり気持ちが落ち着かないでしょうが……。温かいものをたっぷりと食べて、よく寝てください。大抵の憂いはそれで消えてなくなります」

「ふふ。ありがとうございます、マッケンジー卿」


 豪放磊落なマッケンジー卿らしい憂いの解消方法だ。ぜひ参考にさせていただこう。


「そんでそこのが頼りにならない時は、遠慮なく俺を呼んでください。すぐにでも護衛を代わりますので」

「呼びません、絶対に!」

「マッケンジー。貴方しばらくは私とお母様の護衛でしょう? 勝手を言わないの」


 マッケンジー卿の言葉に、ナイジェルとエメリナ様から不満の声が上がる。

 それを聞いたマッケンジー卿は、楽しそうに声を立てて笑った。


「ああ、そうだわ。ナイジェル、パーティーのエスコートの件、忘れるんじゃなくてよ」


 ――パーティーの、エスコート。

 去り際にエメリナ様が発したその言葉に、わたくしは目を瞠った。

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