義姉は感情を持て余す15
改めてカーテシーをした後に顔を上げる。すると長いまつ毛に囲まれた赤の瞳と視線が交わった。
エメリナ様と最後にお会いしたのは、一年ほど前に王宮の庭園で開かれたお茶会だっただろうか。その時にも思ったけれど、本当に美しい人だ。
さらりと流れる黒髪、大きな赤い瞳。息をするのも忘れて見入ってしまうくらいに、整った顔立ち。年齢はわたくしよりも二つ下だったはず。
その美貌が一瞬で陛下のお心を引き、寵愛を射止めたご側室にエメリナ様はよく似ている。エメリナ様には姉君と妹君もおり、その二人の姫君たちも美しくお育ちだ。
陛下は年月を経ても美しいご側室と、その子である姉妹を溺愛している。
だけど……ご側室との間には待望の男児がなかなか生まれない。
王妃様もご側室も懐妊自体が難しい年齢に差し掛かってしまったため、寵姫を増やしてはどうかという進言が近ごろは絶えないそうだ。
寵姫の件はご側室の機嫌を損ねたくない陛下が、今のところは却下しているようだけれど。このまま『心身ともに健康な男児』の件が解決しなければ、時間の問題だろう。
……寵姫に関する話は、テランス様から聞いたことだ。
こっそり裏を取ってみたらそれらは正確な情報で、テランス様の情報収集能力には舌を巻くやら苦笑してしまうやらである。あの方は、間諜にでもなりたいのかしら。
他所で集めた情報を言いふらしているわけではなく、わたくしだけにしか話していないというのは本人の言だ。彼が噂好きだなんてことはどの社交の場でも囁かれていないので、これも本当のことなのだろう。信頼されていることを、喜んでいいものなのか……
――とにかく。
唯一の男児である、王太子殿下はお体が弱い。
心や立場の寄る辺である王太子殿下の命がいつ儚くなるかわからない現状は、王妃様のお心をどれだけ乱しているのだろう。
「ウィレミナ嬢。少し席を外していただいても?」
「席を……ですか?」
エメリナ様にそう声をかけられ、わたくしは首を傾げる。
席を外せと言われても、この部屋数が多くは見えない警備隊の詰め所では難しい。
先ほど襲われたばかりなのに、街をぶらつく気にもなれないし……
「エメリナ様、なにを言っているのですか」
ナイジェルが非難するような視線をエメリナ様に向ける。そんなナイジェルに、エメリナ様は微笑んだ。
そう言えば……この二人には面識があったのだと思い出す。
以前、テランス様が言っていたもの。『ナイジェルは第二王女殿下のお気に入り』だと。
「ナイジェル。私、貴方にお話があって来たの」
「私にですか。別の機会でもよかったでしょうに」
「あら、最近お姉様にべったりで会ってくれないくせによく言うわね。マッケンジーが会いに行くと言うから無理やりついてきてやったわ」
エメリナ様とナイジェルの会話をする様子は砕けたものだ。
その光景を見ていると……胸が重石を乗せられたように重くなった。
ああ、わたくしは――嫉妬しているんだ。




