義姉は感情を持て余す13
ナイジェルが自身の本当の身分を知ってた上で、今までの行動を取っていたのだとしたら。
わたくしはそれを――どう解釈したらいいのだろう。
彼から向けられていたのは果たして『義姉』への好意なのか、『ウィレミナ』という一人の女性への好意なのか。
『ウィレミナ』への好意だとしたら……ナイジェルはわたくしとどういう関係を望んでいるの?
わたくしがぐるぐると考えて頭を悩ませているうちに、ナイジェルは警備兵を見つけて手早く襲撃に関する報告を済ませてしまった。抱えられ百面相をしているわたくしに、警備兵からの気遣うような視線が投げられる。
「その、恐ろしかったですよね」
優しく声をかけられ、わたくしは申し訳ない気持ちと羞恥で身を縮こまらせた。
ごめんなさい、襲撃のせいで気が動転しているわけではないの!
いえ、襲撃でも気が動転してはいたのだけれど! 今は別のことで動転していて!
「……姉様、お可哀想に」
眉尻を下げたナイジェルからも、そんな言葉が向けられる。
今動揺しているのはお前のせいなのだと言ってやりたいわ!
ナイジェルの『腕』がいいのか、男たちはしばらく動けない程度に痛めつけられてはいるけれど致命傷は負っていないそうだ。そんな話を「狭くて申し訳ありませんが」と恐縮されつつ案内された詰め所で、わたくしは聞いた。
「ガザード公爵家のご姉弟を狙った犯行だなんて……」
警備隊の隊長が、沈痛な面持ちで重い息と言葉を零す。
貴族の学園に近いこの街は警備が徹底されている。街の入り口には検問が設置され、警備兵の数も多い。不埒な輩を見抜けず公爵家の姉弟の襲撃に至ったことは隊長の責任問題にもなり兼ねず、気が重いことだろう。
「……早く首謀者を突き止めないといけませんね。姉様にもう、恐ろしい思いはさせたくない」
ナイジェルは眉間に皺を寄せつつそう言って、ふっと息を吐いた。
――ナイジェルを襲う『理由』がある人物……
自らの地位を強固なものにしたいご側室。王太子様の立場を揺らがせたくない王妃様。
きっとそのどちらか、もしくはその派閥の者なのだろうけれど――
「よぉ! ナイジェル。ウィレミナ嬢もお久しぶりです」
重い空気を吹き飛ばす、大きく快活な声が部屋に響く。
驚きつつ声の方に目をやると、にかっと明るい笑顔を浮かべたマッケンジー卿がそこには立っていた。その頼りになる姿を目にした瞬間、安堵でふっと肩から力が抜けたような気がした。
マッケンジー卿の背後には、長い黒髪と赤い瞳を持つ美しい少女が佇んでいる。
あの方は……たしか。ご側室の子である『第二王女殿下』なのではないの?




