義姉は感情を持て余す8
さんざん悩んだ挙句なにを頼むか決まらず、店主におススメを訊くと恐る恐るという様子でパンケーキを勧められた。
――パンケーキは、朝食でよく食べている。
あれは作り方によって差異が生まれる食べ物に感じないのだけれど……。しかしこのパンケーキが、同級が噂していた生菓子の正体らしいのだ。
「わたくしはこの、苺が載っているパンケーキにするわ。ナイジェルは?」
「姉様が食べたい味をもう一つ頼んでください。それを半分にしましょう」
「それでいいの?」
「ええ。それがいいです」
にっこりと笑ってそう言われ、わたくしはナイジェルのお言葉に甘えることにした。食べたい種類が他にもあったのだ。そしてしばらく待っていると。
皿に盛られた、驚くほどに分厚いパンケーキがやって来た。わたくしの前に置かれたパンケーキにはたっぷりの生クリームと苺が載せられ、赤色のソースがかかっている。ナイジェルの前に置かれたパンケーキには、生クリームとチョコレート、そして色とりどりのフルーツが飾られていた。その見目はどちらも美味しそうだ。
「見て、ナイジェル。びっくりするくらいに分厚いわ。すごいボリュームだけれど、ぜんぶ食べられるのかしら」
「姉様が食べきれない分は、私が食べますよ」
「そう? それは助かるわ。すごいわね、どうしてこんなに膨らんでいるのかしら。お皿を動かすとプリンのように震えるのね。パンケーキは薄くて、みっしりとしているものと思っていたのに。さ、食べま――」
高まる期待に押し出されるように、パンケーキにナイフを入れようとすると……
目の前の皿はナイジェルに奪われてしまった。
「まずは、僕が毒見を」
ナイジェルは言葉と同時にパンケーキを少しフォークに取って口に入れる。そしてゆっくりと、なにかを探るように咀嚼した。それを二皿分繰り返す。
「……もう。お前は本当に過保護ね」
「貴女の護衛騎士ですから過保護で当たり前です。守らせてくださいませ、姉様」
彼はナプキンで上品に口元を拭いながらそう言った。
……そんなふうに言われてしまうと、なにも言えなくなってしまうのだけれど。
ナイジェルはわたくしの騎士なのだ。守るのは職務なのだから、過保護であることを責めるのは筋違いとなる。
「姉様、お口を開けてください」
「口を?」
首を傾げながら口を開けると、フォークに刺したパンケーキが口に押し込まれた。
こ、これは。行儀がよくない食べ方なのではなくて! ?
仲の良い婚約者同士がこんな食べ方をしているのを見たことはあるけれど。わたくしたちはそうではないのだし、こんなのダメよ!
――ナイジェルを諫めなければ。
そんな思考は口の中でふわりととろけたパンケーキによって、溶かされてしまう。
「……口の中でふわっととろけて消えたわ。かかっているソースが、苺の爽やかな風味でよく合うわね」
こんな食感のものを食べるのは、はじめてだ。その見た目からもったりとして重いものを想像していたのだけれど、食べ応えは驚くほどに軽い。一皿ぺろりと食べてしまえそうだ。
「なかなか美味しいものですね。姉様、こちらのお味も」
「むぐっ! も、自分で食べられるから……! まぁ、こっちも美味しい!」
また口の中にパンケーキが入れられ、その美味しさにわたくしはまた目を瞠った。
イチャイチャしているだけの回になってしまい恐縮です_(:3」∠)_




