義弟は恋慕する2(ナイジェル視点)
途中からウィレミナさんの視点になります。
繋がれた手は温かく、その淡いはずの熱は激しく心を焦がす。
愛しい人と寄り添う時間は幸せに満ちていて、だけど『もっと先が欲しい』と自身の胸の高鳴りに急かされた。そんな私の気持ちを知ってか知らずか。姉様はこちらに体をもたせながら眠りこけてしまい、愛らしい寝顔を惜しげもなく晒していた。
――やっぱり、男として意識されていないのだろうか。
ここまで無防備な姿を晒すということは、『弟』としか見ていないという証左なのかもしれない。先ほどまでは『脈があるのかもしれない』と浮かれていたのに……姉様の行動一つで自信はみるみるうちに失われてしまう。
暗澹たる気持ちになりつつ肩を落としながら、姉様の寝顔を観察する。
眠っている姉様はふだんよりも幼げなのに、男を惑わせる色香も同時に漂わせていた。長いまつ毛が頬に影を落とし、薄紅色の唇が小さく開いてそこから寝息が零れている。
馬車の振動で姉様の体がずるりと沈みそうになったので、慌てて肩を抱いて固定する。すると体同士がぴたりと触れ合い、『よくない』気持ちを呼び起こした。
「姉様。そんなに無防備だと……悪戯をしてしまいますよ」
低い声で囁きながら、額に口づける。けれど姉様が起きる気配はない。
肩を抱いていない方の手で小さな手を取り、指をしっかりと絡ませる。姉様の手は儚さを感じさせる華奢な感触だ。その手を口元に運び、そっと甲に口づけると滑らかな肌の感触が唇に伝わった。その蠱惑的な感触がもっと欲しくなり、何度も何度も唇を押しつけてしまう。
「……愛しています、姉様。この世界の誰よりも」
堪えきれなかった愛の言葉が唇から溢れ出し、それを姉様が聞いていないことに安堵と落胆を覚える。
この気持ちを伝えるのが怖い。
けれど……伝わればいいとも思う。
*
「……愛しています、姉様。この世界の誰よりも」
――ど、ど、ど、ど。どういうことなのかしら、これは。
わたくしはいつの間にか眠っていたらしく、眠っている間に……ナイジェルに肩を抱かれ、手をしっかりと握られていた。しかも、手の甲に何度も何度も口づけをされている。
これは叱るべきなのかしら。『姉べったり』にもほどがあるわよね。ええ、叱るべきね。
そう思って目を開けようとした時――先ほどの熱のこもった囁きが、耳に届いてしまったのだ。
それはどう聞いても『愛の言葉』で。
驚きのあまりに……わたくしは目を開けるタイミングを失ってしまった。
「姉様は、世界で一番お美しいな……」
『愛の言葉』に続いて、甘く蕩けた声で褒め言葉が紡がれる。
――そんなわけないじゃない! 『世界で一番美しい』と表現しても支障がないだろう義弟にそんなことを言われても、身の置き場がなくなるばかりよ!
この状況を、わたくしはどう解釈すればいいの?
これも『姉べったり』の延長線なのかしら。それとも……
『男女』の意味で、先ほどの言葉を告げたのかしら。
その可能性を考えた瞬間、全身の血が顔に集まった気がした。
わたくしたちは、姉弟なのに。いえ、本当は血は繋がっていないのだけれど!
でもナイジェルは、それを知らないはずで――
だけど、もしも。
もしもナイジェルが、本当は『姉弟』ではないことに気づいていたら?
それで、あの言葉を告げたとしたら……?
「姉様、可愛い。どうしてこんなに可愛いんだろうな……」
わたくしの思考は、まだ続いていたナイジェルの褒め言葉によって沸騰し、蒸発してしまった。
「可愛い、本当に」
つむじに、額に。唇の落ちる感触がする。
「大好きです、私のウィレミナ」
――今、『ウィレミナ』と呼ばれたの?
頭に血が上りすぎたせいだろうか。意識がくらりと暗転し、わたくしはナイジェルにもたれかかるようにして気を失ってしまった。
義弟の猛攻にダウンする義姉。




