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わたくしと義弟の思い出7

「……どうして、お前に甘えなきゃいけないのよ」


 冷たく言って、手元の本へと目を向ける。今日の自習は隣国の歴史についてだ。この国と密接な関わりがある隣国のことは、学んでいて損はない。ナイジェルはとっくに読んでしまっているであろうこの本を、彼の前で開くのが少し気恥ずかしいけれど……

 わたくしには、わたくしなりの進み方しかできないのだ。

 だから開き直って、堂々と開くことにした。


「ウィレミナ姉様が甘えてくれると、嬉しいからです」


 ナイジェルはそう答えながら自分の本を開く。わたくしは怪訝な表情をしながら、彼の綺麗な横顔に視線を向けた。……わたくしが甘えると嬉しい? 本当によくわからないことを言う子。

 意地悪な義姉に甘えられても、いいことなんてないでしょうに。

 それにナイジェルに甘える気なんてないわ。日々いろいろな事柄で負けてばかりなのに、これ以上弱みを見せるのは絶対に嫌よ。


「ナイジェルなんかに、甘えないわ」


 きっぱりと言い切ってみせると、ナイジェルは眉尻を下げて悲しそうな顔をした。どうしてそんな顔をするのよ、わたくしが悪いみたいじゃない!


「……なぜ?」

「教えるつもりはないわ。わたくしこの本を読みたいから、会話はお終いよ」


 これ以上弱みを見せたくないから、なんて恥ずかしくてとても言えない。だから無理矢理会話を打ち切って、本と向かい合ったのだけれど……


「姉様……」


 ナイジェルが見捨てられた子犬のような瞳でわたくしをじっと見つめるから、集中できないにもほどがある。

 わたくしを呼ぶ声まで悲しみの色を帯びているようで……本当に勘弁して欲しいのだけど。胸のあたりがなんだかズキズキ痛い気がするわ。


「……今度のお茶会に来るんですって? お父様に聞いたわ」


 気まずい気持ちになったわたくしは、会話を打ち切る代わりに別の話題を提供した。するとナイジェルは一瞬目を丸くした後に、こくこくと何度も頷いた。


「はい、お父様が参加してもいいと」

「そう。我が家の恥にならないように振る舞いなさい」

「……そのことで、相談があるのですが」

「相談?」


 ナイジェルのマナーはもう完璧だ。嫌というほど見せつけられたわ。それなのに、相談することなんてあるのかしら。


「お茶会にいらっしゃる方々のお名前と顔が一致するようにしたいのです。姉様にわかる範囲で、特徴をお聞かせ願えればと」


 ……はじめてお茶会に参加するんだから、そんなこと気にしなくてもいいだろうに。本当に義弟は真面目だ。

 だけど悪いことではないわね。ナイジェルがなにかしくじれば、ガザードの家名に傷がつく。それをある程度、未然に防げるのだもの。


「……いいわ。お茶会に参加する方々の特徴を教えればいいのね? 参加者のリストを部屋から取ってこないと……」

「ここにあります、姉様」


 ナイジェルはそう言うと、懐から招待状と一緒に送られてくる参加者リストを取り出した。なんとも準備がいいことだ。

 ナイジェルから受け取ったそれに目を通す。今回のお茶会の主催はレアード侯爵家の奥様で、十歳から十五歳までの令嬢令息たちの交流の場として催されるものだ。招待客の中では、我がガザード公爵家は一番家格が高い。だからある程度の失敗はお目溢しされるだろう。それを加味した上でも、気をつけた方がいい人物のことから教えていこう。

 ……参加者が多いから、少し情報を整理したいわね。


「ナイジェル、少しお待ちなさい」


 わたくしは義弟に声をかけると、リストを眺めながら頭の中で情報の整理をはじめた。


「わかりました、姉様」


 ……そして真剣な顔で紙片に目を通すわたくしをナイジェルが嬉しそうに見つめていることには、まったく気づいていなかったのだ。

お姉様は押されると割となんでも言うことをきいてくれます(´・ω・`)


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