義姉は感情を持て余す3
ナイジェルの指が何度も唇に触れた。その慈しむような仕草がむず痒くて、どこか甘いような心地になる。
指に少し力が入り、柔らかな唇を割って前歯に軽く触れた。浅くとはいえ体の中に他人の指があるのが不思議で……だけどそれが不快ではない。
「ん……」
どうしていいのかわからずに、唇で指を挟んだままでナイジェルを見つめて吐息を零すばかりになる。そんなわたくしに見入る義弟の白い頬はどんどん赤くなり、青い瞳が蕩けるように潤みを湛えた。
「……姉様、可愛い」
ナイジェルの顔が近づいてきて、額に、頬にと口づけをされる。
体を震わせながら思わず口中の指を噛むと、義弟が『男の人』の顔で笑った気がした。
「も、もう! 悪戯なんてしてないで、服を早く決めなさい!」
ぷはりと指から口を離して叫ぶと、ナイジェルはくすくすと楽しそうな声を立てながら妖艶に笑う。傾国の美女もかくや……という色気ね。少し嫉妬してしまうわ。
「お出かけよりも……このままここで、姉様とじゃれあう方が楽しい気がしてきました」
「バ、バカなことを言わないの!」
「ふふ、冗談です。そろそろ決めてしまいますね」
……二十着目でようやく決まった外出着は、冴えた群青色の生地にところどころ金糸で刺繍が入ったものだった。
ドレープが愛らしく、地味なわたくしには似合わないとあまり着ていないものだ。
エイリンを呼んで服を着せてもらい、薄化粧を施して髪を結い上げてもらった後、落ち着かない心地でナイジェルの元へと向かう。
――ナイジェルが選んだ服は……ちゃんと似合っているかしら。
それが少し不安で、なんだか緊張してしまう。
「姉様……!」
わたくしの姿を見たナイジェルは心の底から嬉しそうに笑った。その笑顔を見た瞬間にまた心臓が妙な音を立てようとしたので、それを必死に奥の方へと押し込める。私の心臓は、本当にどうしてしまったのだろう。
「これは少し、派手ではなくて?」
「そんなことはありませんよ。姉様は髪や瞳が深い黒なので、はっきりとした色との相性はとてもいいので」
「そうなの?」
「ええ、とてもお似合いです。本当に美しい」
「そ、そう……」
……義弟は、いつでも手放しに褒めすぎだ。
ナイジェルの青の瞳にわたくしの姿が映る。
それを見ていて――ふと思った。
「……目の色ね」
「え?」
「この服よ。お前の目の色に似ているわ」
「ええ。そう思ったから選んだのです」
てらいもなく言われて、わたくしは首を傾げた。
――なぜ、自分の色を。
そう思ったけれどなぜだか訊くのが怖くて、口を噤んでしまう。
「姉様に私の色を纏っていただけるのは……幸せなことですね」
「――ッ!」
だけどナイジェルが訊きもしないのにそんなことを言うものだから、どんな反応をしていいのかわからなくなってしまった。
「もう……バカなことばかり言わないの! ほら、行くわよ!」
手を差し出すと、その手を取ってナイジェルが笑う。
しっかりと手を結んで、私とナイジェルはようやく部屋を出たのだった。
ナイジェル視点にするつもりが、イチャイチャを書きたくてウィレミナ視点が伸びました(/・ω・)/




