義姉は感情を持て余す2
結局……わたくしの外出着はナイジェルが選ぶことになった。
あれでもないこれでもないと、狭いウォークインクローゼットの中で身を縮めつつ服を選ぶナイジェルの表情は怖いくらいに真剣で、その熱意伝わる様子に少しだけ引いてしまったのは内緒だ。
「ねぇ、ナイジェル。服なんて適当でもいいと思うの」
先ほどまでナイジェルと同じように盛大に悩んでいた自分は棚に上げて、そんな言葉をかけてしまう。このままでは、お出かけの時間が減ってしまいそうなのだもの。
「ダメです、姉様に一番似合うものを誠心誠意で選ばないと。自分好みに姉様を飾り立てる機会なんて、滅多にないのですし」
十何着目かになる服をわたくしにあてがいながらの、生真面目な口調でそう返される。ナイジェルはわたくしに『似合う』服ではなく、『自分好み』の服を着せようとしているの……?
「……義姉を、お前好みに飾ってどうするのよ」
ぽつりと、そんな言葉が零れてしまう。
わたくしは『義姉』なのだから、ナイジェルの『好み』に飾るなんて無意味な行為だ。そんなことは、『異性』として好意を持つ女性にすればいい。
…………義弟の好みは、どんな女性なのかしら。
それを考えると、なぜだか胸の奥がもやもやとした。
胸のあたりを押さえて眉間に皺を寄せていると、ナイジェルがわたくしの様子を見て首を傾げる。そしてこちらに一歩近づき、綺麗な手を額にそっと当ててきた。
「お加減が悪いのですか、姉様」
近い距離で覗き込まれ、顔色をじっくりと観察される。義弟の信じられないくらいに美しいかんばせが目と鼻の先にあり、緊張からか心臓が大きく跳ねた。
一歩後ろに下がろうとしたけれど、ウォークインクローゼットの中は狭くてすぐに戸棚に背がついてしまう。ナイジェルに再び距離を詰められて、結局元の状況に戻ってしまった。
「……顔が赤いです。先ほども赤くなっていましたよね。熱でもあるのでしょうか」
ナイジェルの顔がさらに近づき、鼻と鼻の先がひたりと触れ合う。吐息が唇にふわりとかかって……まるで口づけされる寸前のようだ。そんなことを考えてしまったからか、顔に一気に血が上って足元が覚束なくなってしまう。ふらついてしゃがみ込みそうになると、ナイジェルの手が伸び腰をしっかりと支えられる。すると顔の距離は離れたのだけれど……今度は体同士が密着してしまった。
「体調が悪いのでしたら、無理はしないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫よ! だから少し離れてちょうだい!」
必死に叫んでみせると、密着していた体がすいと離れていく。ナイジェルとの距離が離れたことに、安堵と同時に……少しの寂しさを感じてしまうのだから不思議だ。
「お、お前は! 距離が近すぎなのよ!」
「そうですね。後少しで唇同士が触れ合いそうでした」
ナイジェルは悪戯っぽく言うと、わたくしの唇をついと指先で撫でる。そして、妖艶な笑みを口元に浮かべた。
「な……な……!」
本当に……この義弟はなにを考えているのかしら!
次回はナイジェル視点が入る予定です(/・ω・)/




