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テランス様の来訪2

 ……テランス様はご側室の侍女殿とどういう繋がりなのか。それを訊くのは野暮かしら。そんな考えが顔に出ていたのか、「友人が、ご側室の侍女殿と繋がっているだけだからね」と苦笑いで念を押されてしまった。

 前にテランス様から、『ナイジェルが王女様のお気に入り』と聞いた時にも思ったけれど。王宮の情報管理は一体どうなっているのだろう。

 それともテランス様『だから』、みんなお口が軽くなるのかしら? テランス様はいつでも物腰柔らかく、人好きのするお方だ。この雰囲気に呑まれて、みんな『うっかり』話してしまうのだろうか。目の前のこの好青年は、案外諜報向きなのかもしれない。


「それは、王妃様が……」


 これ以上は『不敬』になるかもしれないと、言葉を濁す。テランス様はわたくしの言いたいことを察して、ほろ苦い笑みを浮かべながら頷いた。

 王室には、世継ぎが王妃様がお産みになった王太子殿下しかいない。彼は幼い頃から病弱で、今では一年の半分以上を寝台で過ごされている。だから第二王子の誕生が望まれているのだけれど……王太子殿下以降、王室には女児しか産まれていないのだ。

 王妃様の最後のご出産は三年前。それからは懐妊自体されていない。そして年齢的にも、そろそろ限界が迫っている。そのことで気を病み、近頃ではかなり鬼気迫るご様子なのだとか。王妃様付きの侍女が厳しい折檻に耐えられず離職した……なんて話を聞くのもめずらしくない。


「荒れるだろうね。近頃はまた王太子殿下のご体調もよくないようだし」

「……場合によっては、情勢が動くかもしれませんわね」


 王太子殿下の代わりになる男児がいないのは、頭が痛い問題だ。

 ちらりとナイジェルに視線を向ける。彼はなにを考えているのかわからない表情で、まっすぐに前を見ていた。

 ナイジェルはきっと……王太子殿下に次ぐ立場だ。お父様が彼を『隠して』いるのは、王宮での闘争に彼を立たせる気が『今のところは』ないからだろう。

 王太子殿下に万が一があり、ご側室のお子がまた女児であれば。……ナイジェルに、きっと順番が回ってくる。

 それを想像すると、ちくんと胸が痛んだ。


 ――そうなるのは、嫌ね。


 貴族や王族としての覚悟をもって、この子は生まれ、育ってきたわけではないのだ。『公爵家の子』という立場だって荷が重かっただろうに、ましてや王族だなんて。

 なにも知らないままで……平穏に生きて欲しいわ。

 わたくしはナイジェルから視線を外すと、ふっと息を吐いた。


「多少のことでは揺るがないガザード公爵家は、なにがあっても中立を保つのだろうけれど。私の家は君の家ほど立場が強くはない。情勢が変わった時に……立ち位置が変わる事があり得るわけだ。そうなれば、君の婚約者候補のままでいられるかわからない」


 テランス様はそう言うと、わたくしをじっと見つめた。

 その瞳にはなんらかの熱がこもっていて、目を逸らしたい気持ちに駆られる。

 その整った形の唇から次に紡がれる言葉を聞くのが、わたくしはなぜか恐ろしいと思った。


「私はね、ウィレミナ嬢のことを慕っているよ。婚約者候補なんて不確かな立場ではなく、婚約者として君の隣に立ちたい」


 真剣な瞳でわたくしを射抜きながら、テランス様はそう告げた。


「――ッ」


 ひゅっと喉から空気が漏れる。目を大きく見開くわたくしに、テランス様は優しく微笑みかける。そして椅子から立ち上がると、こちらに歩みを進めた。


「そこまでです、テランス様」


 鋭い声が空気を揺らした。そしてわたくしの隣に、どかりとナイジェルが腰を下ろす。


「ナ、ナイジェル!? 護衛がなにをやっているの!」


 義弟の行動に、わたくしは目を白黒とさせた。


「……護衛騎士としてではなく、家族として同席させてもらいます」


 腕組みをして鋭く睨みつけながらナイジェルが言うと、テランス様は苦笑する。

 そして「これでは口説けないね。番犬がいない時にまた来るよ」と言い残してから、部屋を出て行った。


「あれは、本気だったのかしら」


 本気だとすれば、殿方からのはじめての告白だ。

 まさかテランス様が、あんなことを思っていたなんて。

 テランス様のことは、平穏無事な結婚生活が送れるだろう相手だとは思っていた。しかし『恋』のお相手となると、正直なところピンとはこない。

 けれどああ言ってくださったのだから、真剣に考えないと……


「遊び人の言葉なんて、信じてはいけません。姉様にはもっとふさわしい相手がいるはずです」


 ナイジェルは拗ねたような声音で言うと、子供のように頬を膨らませた。


「ふさわしい……?」

「そうです。例えば姉様をいつでも守れる、騎士、とかですね……」

「まぁ! マッケンジー卿のことかしら。ふふ、そうだったら嬉しいけれど」


 マッケンジー卿との結婚生活。そんなものが訪れたら、どんなに素敵だろう。

 頬を染めるわたくしを見て、ナイジェルはなぜかがくりと肩を落とした。

姉様は基本的に鈍いのです(´・ω・`)

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― 新着の感想 ―
[一言] お帰りなさい! 鈍感姉様と一途ワンコ義弟たまりませんねえ。 しかしここは、妄想マッケンジー様と、テランス様に軍配上がりそう。がんばれー!
[良い点] 姉様はマッケンジー卿ひとすじですね^_^; ほら、もっと身近に、姉様だけの騎士様がいるじゃないですか!笑 誰か教えてあげてください*\(^o^)/*
[良い点] テランス様がお色気むんむんで、危機感が( ̄▽ ̄;) しかしウィレミナはドキッともしてないし、ナイジェルの鉄壁がものすごい安心感です(笑) そしてテランス様の情報網がすごいww 絶対的に回し…
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