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わたくしと義弟の思い出6

 お父様にすがって散々泣いたあとに、日課になっている自習をしに図書室へ向かうと……そこでナイジェルと鉢合わせてしまった。

 ……この子は自習なんてしなくてもいいくらい出来る子なのに、さらに研鑽を積もうとする。悔しいけれど、わたくしが勝てなくて当然なのよね。努力をきちんとする天才なんて本当にたちが悪いわ。

 そんなことを考えながらナイジェルから離れた長椅子に腰を下ろすと、ナイジェルが音も立てずにこちらに近づいてきた。


「……ウィレミナ姉様」

「なによ」


 ジロリと強く睨んでも、いつもの通りならば義弟の表情に変化は生まれない。


 その――はずだった。


 ナイジェルの眉間に小さく、だけど不快だと言わんばかりの皺が寄る。めずらしく怒ったのかしらと内心ドキドキしていると、綺麗な白い手がすっとこちらに伸ばされ……わたくしの頬を撫でた。

 こんなことをされるのは、はじめてだ。驚きのあまりに体を緊張させてなにも言えずにいると、真剣な表情で頬をさらに何度も撫でられた。ナイジェルの強い視線がこちらを射抜き、目を逸らそうとしても逸らせない。視線でその場に縫い止められたような錯覚まで起きてしまう。


「ナ、ナイジェル? どうして触れるの!?」


 ナイジェルの行動の意図がわからず、焦りで声が上ずる。そんなわたくしに……彼はふっと柔らかな笑みを見せた。


 笑った。

 いつも無表情な……義弟が。


 ふわりとそこにだけ光が差したかのような美しい笑みに、わたくしはつい見惚れてしまった。ナイジェルはふだんから美しいけれど、笑うと美貌がさらに際立つのね。

 彼は人間ではなく……天使かなにかなんだろうか。そんなバカなことさえ考えてしまうほどの美しさだ。


「姉様、泣いたのですか。頬に涙の跡が残っています。誰かにいじめられましたか? その誰かを……こっそり僕に教えることはできますか?」


 氷のような、けれど奥に熱を孕んだ声が美しい唇から紡がれる。

 ナイジェルに見惚れていたわたくしは、それを上手く聞き取れず首を傾げた。


「なに……?」

「……どうして、泣いていたのです?」


 そんなわたくしの様子を見て、ナイジェルは少し大きな声で重ねて質問をする。同時に絶世の美貌が近づいてきて……綺麗な唇が瞼に触れた。


「ひぇ!?」


 されたことに驚いて、淑女らしからぬ悲鳴を上げてしまう。どうしてキスをされたの!? 顔に熱が集まり、心臓が痛いくらいの脈動を刻んだ。体温も何度か上がったような気がするわ!

 ナイジェルの行動の意味が――本当にわからない。


「目の周りが……赤くなって少し腫れています」


 ナイジェルはそう言うと、わたくしの目元を指先で優しく撫でた。

 ……先ほどのキスは、その治療とでも言うのだろうか。

 そうね、きっとそうなのね。じゃないと意味がわからなすぎるもの。

 義弟の親切心は、変わった方向性で発露するらしい。


「お、お父様に少し甘えてしまっただけよ! わたくしにだって泣きたい時があるの」

「お父様に……いじめられたわけではないのですね?」

「わたくしのことを大好きなお父様が、そんなことをするわけないでしょう!?」


 調子が戻ってきたわたくしは、強い口で言ってナイジェルを睨みつけた。

 するとようやく頬から手が離れていく。そして義弟はわたくしの隣に腰を下ろした。


「何事もないのでしたら、安心しました」

「……どうして、隣に座るのよ」

「今日も一緒にお勉強がしたいなと。それと……姉様」


 ナイジェルはわたくしを見つめながら、口元にまた笑みを纏う。そして……


「僕にも甘えて、いいんですよ」


 そんな訳のわからないことを言った。

お姉ちゃんは鈍い子です(´・ω・`)


面白いと思って頂けましたら、感想・評価などで応援頂けますと更新の励みになります(*˘︶˘*).。.:*♡

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ここまで溺愛されても気付かないものなのか…
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