義姉は義弟におねだりをされる6
「ナイジェル」
「……はい」
「わたくし怒りすぎたと反省しているのよ。だからそんなにしょげないで」
大きな手を取りぎゅっと握ると、縋るように握り返される。
そして銀色の長い睫毛に縁取られた綺麗な青が、気弱げな光を宿しながら窺うようにこちらを見つめた。
……こんな顔をさせてしまって、本当にダメね。
あんな夢を見て、わたくしは後ろめたかったのだ。
だからナイジェルの好意からくる他意の無い行動に、過剰な反応をしてしまった。
要は――照れ隠しの八つ当たりだ。いつまでもわたくしは、ひどい姉ね。
「……姉様」
「なに? ナイジェル」
「姉様は、私のことをその……お嫌いではありませんか?」
可憐な少女のような恥じらい顔で、ナイジェルが訊ねてくる。
「そ、それは……その。言わなければダメなの?」
「はい。姉様の口から聞けないと、安心できませんので。聞かせてください」
ねだるようなその響きに、わたくしはなぜだか逃げ場を失くしたような気持ちになった。
「えっと、その……」
『好きに決まっているわよ』その一言が、喉の奥に引っかかってなかなか出てこない。
「姉様?」
ナイジェルが首を傾げながら、不安げな表情になる。
こくんと唾を呑んで、わたくしはようやく口を開いた。
「す、好きよ。ナイジェル。ええ、大好きだわ」
顔を赤に染め上げながら、その言葉を口にする。するとナイジェルの顔も、あっという間に真っ赤になった。
なんだか恥ずかしいわね。というか、この意思確認は必要なものだったのかしら。
今のわたくしが貴方を嫌っていないことくらい、見ればすぐにわかるでしょう!?
「姉様……!」
ナイジェルは小さく呟くと、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
ず、ずるい。わたくしだって恥ずかしいのに!
「想像していた以上の威力だ……」
「お前がなにを言っているのか、わたくし理解できないのだけど!」
『威力』って一体なんなのよ。恥ずかしさでダメージを負ってしまったという意味では、わたくし自身には威力満点だったわけだけれど。とにかく……
「これで仲直りってことで、いいのかしら?」
「はい。その……私も姉様が大好きです」
「――ッ!」
隠していた顔を見せて、極上の笑顔と共に言われた言葉。それは心臓を大きく跳ね上げ、強く鳴らした。
嫌だわ。義弟に『好き』だと言われたくらいで、どうしてこんなに動揺しているのよ。
こんなに直接的な好意をぶつけられることなんてほとんどないから……そのせいね、きっと。
「た、叩いたところは痛くはないの?」
ひとまず話題を変えようと、ポカポカと叩いたあたりを見つめてみる。
けれど服の下は当然見えないわけで……。赤くなったり、腫れていたりしていないといいのだけど。
「はい。子猫に叩かれたくらいものでしたので」
「……わたくし、本気だったのだけれど」
「鍛えておりますので」
ナイジェルはそう言ってまた笑う。
なんとなく腹が立ってまた軽く胸を叩くと、その手はそっと握られ「怪我に障りますので」と優しく耳元で囁かれた。
ナイジェル。そういう行動は姉に発揮するべきものではないと思うのよ……!
仲良し姉弟の仲直り後(/・ω・)/




