義姉は義弟におねだりをされる4
「今までずっとこんなふうにしていたの? だらしないわね」
「……騎士団では、気にする者もいなかったので。マッケンジー卿もこんなものでしたよ」
「まぁ。それは男らしいわね」
水も滴るマッケンジー卿は、正直少し見てみたい。絶対に素敵だわ、どうしましょう!
「マッケンジー卿と私で、どうしてそんなに評価が変わるのですか」
ナイジェルに拗ねたように言われるけれど、仕方ないじゃない。
マッケンジー卿のように野性的で素敵な騎士様と、ナイジェルのように女性的な美しい容姿の男性では、同じ行動でも評価は当然変わってしまうものだ。
「姉様。私も男らしい体つきになったと思います」
「そうね、逞しくなったわね。すっかり背も伸びたわ」
「……ですが。私はマッケンジー卿にはなれません」
明らかに落ち込んだ口調のナイジェルの言葉に、わたくしはぽかんとしてしまった。
その綺麗な横顔には暗い色が差している。
……ナイジェルはもしかして、マッケンジー卿をライバル視でもしているのかしら?
そうよね、越えるべき師匠ですものね。意識をし、なりたいと思うのは仕方ないわ。だけど……
「ナイジェルはナイジェルのままで、いいのではなくて?」
タオルで頭を包むようにしてわしわしと拭いてあげながらそう言うと、ナイジェルの青の瞳がこちらに向けられた。その瞳の奥には困惑のような色が滲んでいる。
「私の……ままで?」
「ええ。師匠に追いつき、追い越そうと切磋琢磨するのは素敵だと思うけれど。マッケンジー卿と同じになる必要は別にないでしょう? だってナイジェルにはナイジェルの良さがあるもの」
見た目は言わずもがなで素敵だし、頭が良くて学習意欲も常に高い。
幼い頃は決して騎士に向いているとは言えない体つきだったけれど、努力をしてこんなにも立派な騎士になった。
そしてとても……優しい子だ。
ナイジェルはどこに出しても恥ずかしくない、自慢の弟ね。
「姉様……!」
視界がなにかで覆われる。それがナイジェルの体だと気づき、わたくしは驚きで声も出せずに固まった。
ぎゅっと強く抱きしめられ、首筋に頬を擦り寄せられる。そして高い体温がわたくしの肌に温もりを与えた。
互いに薄い夜着なのでナイジェルの体の感触が直接的に伝わってくる。胸板は厚くて、腕も驚くくらいに逞しい。
いや、待って。どうして抱きつくの!?
どこに出しても恥ずかしくない義弟だけれど、この姉べったりはいただけないわ!
それに、こんなことをされると……先ほどの夢のことを思い出してしまう。
「……嬉しいです」
ナイジェルの唇から小さく声が零れて、熱い吐息が肌をくすぐった。
「あの、嬉しいのはわかったから。離して……お願いよ、ナイジェル」
恥ずかしさのあまり懇願するように言うと、ナイジェルはゆっくりと身を離してくれた。
そのことにほっとしていると、額に口づけが降ってくる。
まるで夢の唇の感触と同じみたいな、優しくて柔らかな感触……
「……!?」
「姉様……可愛い」
ナイジェルはそう言うと『氷の騎士』なんて世間の評価が信じられない、甘く蕩けきった笑みを浮かべた。
ぐいぐいと来る義弟(/・ω・)/




