義姉は義弟におねだりをされる2
メイドたちに身を清められた後に、湯船に体をゆっくりと沈める。するとお湯の温もりが体に染み渡り、自然に呼吸が唇から零れた。
……近くにナイジェルがいるのね。
そんな環境で入浴しているなんて、おかしな感じだ。
だけどこの状況にも慣れないといけないのよね。だってナイジェルはずっと近くに居るのだから。
血は繋がっていないとはいえ……あの子は『弟』よ。
『弟』が近くに居るだけなのになにを動揺することがあるの、ウィレミナ・ガザード。
心に言い聞かせながら口までお湯に沈む。すると側に控えているメイドたちから、少し心配するような視線が向けられた。……湯にのぼせていると思われたのかもしれない。
あまり長く浸かっているとナイジェルが入る時にお湯が冷えてしまうわね。わたくしがお湯から上がるとメイドたちが体を素早く拭き取り、香油を肌に塗り込んでいく。
ガザード公爵家の使用人と遜色がないくらいの手際ね。さすが学園に雇われているメイドだわ。
ちなみにエイリンとロバートソンは使用人用の寮に帰っている。二十四時間わたくしに付きっきり、なんてわけにはいかないものね。
「お湯はそのままにしておいて。弟が後から入るようだから」
「ナ、ナイジェル様がですか?」
「お手伝いの方は……」
「ど、どうしましょう」
メイドたちが頬を赤くしながら声を上ずらせた。その目はどこかギラギラとしている。
わたくしはそんな彼女たちを見て、内心苦笑した。
「弟の世話は結構よ。あの子は騎士学校や任地で自分のことは自分でやっていたはずだから」
「そ、そうでございますよね。失礼致しました」
代表格らしいメイドが、キリリと表情を引き締め直す。学園の教育が行き届いたメイドまで動揺させるなんて、ナイジェルの美貌はすごいわね。
浴室を出てナイジェルを探すと、彼は居間の長椅子に座って長い足を組んでくつろいでいた。そしてわたくしに気づくと蕩けるような笑みを浮かべた。それを見たメイドたちから「ほぅ」と小さく息が漏れる。
「姉様、上がったのですね」
「ええ。お前も入ってきなさい」
「はい、そうします。姉様、その……」
ナイジェルはこちらに近づいてくるとぎゅっと手を握る。……手の握り癖がある子ね。わたくしの手なんて握って、なにが楽しいのかしら。
ナイジェルはなぜかわたくしの手を何度か握ったり離したりした後に、頬を赤く染めて「しっとりしている……。それに、いい香りが」と小さくつぶやく。それはそうよ、お風呂から上がりたてなんだから。
「ナイジェル。なにか言いたいことがあるのではなくて?」
「あ、はい。その……うっかり先に寝てしまったりしないでくださいね。たくさんお話したいことがあるのです」
本当にこの子は子供みたいね。わたくしはナイジェルの手を握り返しながら、口元に笑みを浮かべた。
「約束したのだから寝ないわよ。ほら、入ってきなさい」
「わかりました!」
ナイジェルは元気に返事をするとそそくさと浴室へと向かう。
そんなナイジェルの背中にメイドの誰かからの、「噂とは少し違うわね……?」という小さな呟きが被せられた。
……わたくしも、そう思うわ。
体調不良で更新ペースが乱れております。
戻せるように頑張ります。




