義姉と義弟は二人で出かける4
結局。ナイジェルには表面がカットされ文様のようになっている、シンプルなデザインの指輪をプレゼントした。無くしたり壊したりしないように鎖に通して首からかけるようにしたから、他のものよりは無くしづらいのではないかしら。
「……嬉しいです、姉様」
ナイジェルは指輪を何度も手で弄び、嬉しそうにふにゃりと笑う。
指輪一つで、そんなだらしない顔をして……喜んでもらえることは嬉しいけれど。
「無くしても、また買ってあげるわ」
「無くしません。姉様からのはじめてのプレゼント……嬉しいです」
指輪を愛おしそうに見つめた後に、軽く口づけをする。そんなナイジェルを見ていると、少し気恥ずかしくなってしまう。恋人に贈り物をされたかのような、大げさな喜び方ね。
熱い頬を片手で押さえていると、ナイジェルに顔を覗き込まれる。なぜだか今の顔を見られてはいけない気がして、わたくしは彼から顔を背けてしまった。
「姉様、顔が真っ赤です」
「どうしてわかるのよ!」
見られないようにしているのに……!
「だって……お耳が真っ赤です」
……そればかりは、どうしようもないわね。
「お前が喜び過ぎるから恥ずかしくなったのよ、もう!」
わたくしはナイジェルに向き直ると、軽く睨みつけた。
ナイジェルは頬を染めて色香の馨る笑みを浮かべており、それを見た周囲の女性たちがくらりと立ちくらんだり、顔を真っ赤に熟れさせたりしている。本当に罪な男ね。
「姉様、可愛い……」
「……バカなことを言わないの。用事は済んだのだし、帰るわよ」
熱が取れない頬をぱたぱたと片手で扇ぎながら、もう片手で義弟の手を引っ張る。けれど手の持ち主はびくとも動かない。
「……嫌です」
そんな言葉が耳に届く。ナイジェルを見ると、彼は眉尻を下げて瞳を潤ませ、悲しみに満ちた表情になっていた。笑ったり、悲しんだり、なんとも忙しい子だ。
これが巷では『冷静沈着な氷の騎士様』なんて言われているのだから、不思議なものである。
「せっかく街まで出たのですし、もう少し姉様と一緒に居たいです」
「ワガママを言わないの」
「嫌です。姉様ともっと街を散策するんです」
「ナイジェル……」
手を伸ばして、義弟の頬をするりと撫でる。
本当にこの子は……体ばかり大きくなって、子供のままなのだから。
「少しだけよ。大まかな荷物の整理はエイリンがしてくれていると思うけれど、細かなものの整理はしないといけないし」
「はい、姉様!」
頬を撫でるわたくしの手に大きな手を重ね、ナイジェルが手のひらに頬ずりをしてくる。
ナイジェル。貴方、子供の頃より甘えん坊になっていない?
これは紳士として問題があるのではないかしら……
そんなことを思いながらも、ナイジェルがあまりに嬉しそうなので怒る気持ちは失せていく。
「どこに行きたいの?」
「姉様が喜んでくれる場所なら、どこでも」
「……お前の言うことが、本当にわからないわ。自分の行きたい場所はないの?」
「私は、姉様と一緒に居られればそれだけで嬉しいので」
「これからずっと一緒でしょうに……本当に仕方ない子ね」
つい苦笑を向けると、華やかな笑顔で返された。
結局この後は街を散策し、さらにねだられて晩ごはんまで外で食べて帰ることになり……
あまりに遅い帰りを心配していたエイリンに泣かれてしまったので、わたくしは大いに反省をした。
甘えられるとずぶずぶと言うことを聞いてしまう義姉なのです(´・ω・`)




