義姉と義弟は二人で出かける3
ナイジェルに手を引かれて店内に入ると、そこには色とりどりの商品が並んでいた。品は悪くなさそうね。自分のそういうものを測る見識眼は、割合正しい自信がある。
店内は女性客でいっぱいで、ナイジェルを目にした彼女たちからは黄色い噂話がふわふわと飛び交う。
……なんとも落ち着かないものだ。
子供の頃から令嬢人気がすごい子ではあったけれど、『不義の子』ということもあり蔑みに流れるご令嬢の数もそれなりにいた。けれど今は……。『不義の子』という汚名は、この端麗な容姿と『優秀な騎士』という名声で完全に雪がれている。
そして彼は、実際には尊い血なのだ。
本当に非の打ち所がない自慢の義弟ね。
「お前はすごいわね。取り柄でいっぱいなのだもの」
見上げながら思ったことを言うと、ナイジェルの頬が赤くなる。
「姉様……! 急になんですか」
「だってお顔もいいし、マッケンジー卿が認める優秀な騎士なのよ。わたくし鼻が高いわ」
「姉様だってお綺麗ですし、常に真摯な努力をする素敵なご令嬢じゃないですか!」
「もう、お世辞はいいのよ。わたくしには取り柄がないのはわかってるのだから。あっ、このアクセサリーなんて素敵じゃなくて?」
アクセサリーを手にしてから振り返ると、ナイジェルはどこか不服そうな顔をしている。
そんな顔をされる理由がわからず首を傾げると、彼から仕方がないなと言わんばかりの苦笑が零れた。
「見せてください」
「髪飾りなのだけど、お前の綺麗な銀の髪に合いそうだと思って。リボンに縫いつけられないかしら」
ナイジェルの肩を過ぎるくらいの長い髪は、黒のリボンで無造作に結ばれている。これに飾りが増えたら、きっと素敵よね。手に持ったシンプルな銀のアクセサリーを、ナイジェルのリボンに当ててみせる。うん、似合うと思うわ。
「髪飾りですか……もっと無くさないようなものがいいです」
「無くす予定があるの?」
「訓練などで激しく動くと、取れてしまいそうなので」
「それもそうね。じゃあなにがいいかしら」
騎士が身に着けて、激しい動作をしても無くさないもの……そう考えるとなかなか難しいわ。
棚を眺めながら次々に移動していると、右手がきゅっと握られる。
そちらを見ると、真剣な表情のナイジェルが居た。
「……ナイジェル?」
「あまり離れないでください。なにがあるかわかりませんから」
「心配しすぎよ」
義弟の心配性に少し呆れてしまったけれど、考えてみれば薔薇園で護衛が近くに居る時に被害にあったのだ。ナイジェルが心配するのも、仕方ないのかもしれない。
「もう、わかったわよ。ほら、これでいい?」
手をしっかりと繋ぎ直すと、嬉しそうに微笑まれる。
……護衛との距離にしては近いけれど、弟との距離と考えれば不自然でもないわよね。
「ハンカチのような消耗品も微妙だし……。お前がワガママを言うから、どれを選んでいいのかわからないわ」
「なにを選んでくださるのか、楽しみです」
「指輪……は剣を使う時に邪魔になってしまうし。ピアスも無くしてしまいそうね」
うんうんと唸っているわたくしを、ナイジェルが期待するような目で見つめる。そんな目で見られても、動いても取れない装飾品なんて難しいのよ。
「もう……本当に困ってしまうわ。お前は昔からワガママばかりなんだから」
「申し訳ないです、姉様」
義弟はそう謝罪しながら、ちっとも謝意が感じられない笑みを浮かべた。
ワガママを受け入れてもらえることが、義弟の喜びなのです。
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