愛しい姉様(ナイジェル視点)
「さ。お買い物に行きましょう、私の騎士様。守ってくださるのよね?」
姉様は無邪気に言いながら腕を絡め、柔らかな肢体をぐいぐいと押しつけてくる。
……姉様、勘弁してください。
十六歳の花盛りである姉様の感触は、私には刺激が強すぎます。
義弟だからと油断しているのでしょうけれど、こんな可愛いことを二人きりの時にされたらきっと理性が持ちません。エイリンとロバートソンが居て……本当に良かった。
姉様は自分に向けられる好意に――とても疎い。
それは人の行動には『裏』、もしくは『利害が絡む理由付け』があると解釈することを、幼い頃から習慣づけられていたせいだろう。姉様の周囲にはそれだけ『敵』や『利害』で繋がっている人々が多いのだ
エイリンや公爵のような、完全に敵意や利害と切り離された人物はその警戒の外のようだが。そして私もようやく、警戒の外側に置いてもらえたのだと思う。
……ガザード公爵家の令嬢なのだから、姉様の習慣自体は仕方ないことなのだ。
だけどそれは――寂しいことだとも思う。
「……ナイジェル、どうしたの?」
私が沈黙していると姉様が首を傾げながら声をかけてくる。その瞳の奥に揺らめくのは、明らかな不安だ。
姉様は人に心を許すことに慣れていない。それをやっと許してくれつつあるのに、また離れて行かれるのは困る。
私は姉様を安心させるように、にこりと微笑んでみせた。
「申し訳ありません。少し考えごとをしてしまって……」
「もう。側に守るべき相手が居るのに、失礼ね」
姉様はどことなくほっとした様子で息を漏らした後に、頬を膨らませる。
そんな姉様を見ていると、痛いくらいに胸が高鳴った。
警戒を解いた姉様は、なんて愛らしいのだろう。今までも愛らしかったのだが、その濃度が上がっているというか……
好きだ。愛おしい。私は姉様のお隣に一生居たいのだと、今すぐに告げてしまいたい。
『愛しています、ウィレミナ。私と結婚してください』
出かかった言葉を必死で飲み込む。これを伝えるには、まだ早いのだ。
「失礼致しました、私の主人。さ、出かけましょう」
平静を装いながらそう言うと、姉様が嬉しそうに笑う。
「ええ、行きましょう。お前がどれだけ立派になったのか、わたくしに見せてちょうだいな」
「いくらでも見せてあげます、姉様」
「ふふ、言うわね。その言葉、覚えておくから」
ぎゅっと腕にしがみついてくる姉様は、本当に楽しそうだ。
この無邪気さを裏切らないためにも、私は柔らかな体の感触から意識を逸らそうと心の中で必死に数を数えた。
「……ナイジェル」
「なんですか、姉様」
「良かったわ、お前が護衛騎士で。気の抜けない学園生活になると思うけれど、気を許せるものがいつでも側に居ると思うとほっとするわね」
そう言ってふにゃりと表情を和らげられ、私はつい姉様を抱きしめそうになる。
――姉様! 貴女はどうして私を試そうとするのですか……!
警戒が緩んだ姉様は、割合無防備になります(´・ω・`)
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