義弟との再会4
ナイジェルに……やっと、やっと謝れたわ。
わたくしはそのことに安堵すると同時に、ナイジェルの胸に顔を擦りつけて泣いていることに気恥ずかしさを覚えた。
「ナイジェル、そろそろ離して」
「嫌です、姉様」
身を離そうとするけれど、ナイジェルは強く抱きしめたまま離してくれない。
もう! そんなに力を入れられると、痛いじゃない!
「ずっと会いたかったんです。だから、もう少し」
そう囁くナイジェルの声は少し泣きそうだ。
「ナイジェル……」
本当に困った子ね。こうやってワガママばかり言って、わたくしを困らせるのだから。
今まで、彼はわたくしを憎み忌み嫌っているものだとばかり思っていた。だけど、こんなにも慕っていてくれたのね。
ナイジェルがどう感じていようと、わたくしは褒められた義姉ではなかった。それなのに……
「仕方ない子ね。あと少しだけだから」
そう言いながら、すっかり大きくなった背中をトントンとあやすように叩く。体はこんなに大きいのに、義弟の本質的なところは変わらないらしい。そんな様子に……思い出の中の義弟と今の義弟が、少しずつ重なっていく。
そうよね。血が繋がっていなくても、やんごとなき血を引いていても。
この子は、わたくしの『弟』なのよね。
「本当に、困った子」
くすくすと笑い声を漏らすと、ナイジェルがなぜかため息をつく。
「……子供扱いは、しないでください」
「こんなふうに甘えておいて、よく言うわね」
抱きしめあったまま会話をするのは、なんだか不思議だ。だけどナイジェルの体温は……不快ではない。
「学園ではよろしくね、ナイジェル。わたくしを守ってくれるのでしょう?」
マッケンジー卿の代わりなのだ。
彼が許可を出すということは、安心してナイジェルに身を委ねていいのだろう。
「はい、もちろんお守りします。そのために……強くなったのですから」
「それは本当に……あの時のことを負い目に感じて護衛騎士になったのではないの?」
「違います」
きっぱりと言われて安堵する。ナイジェルの将来を捻じ曲げたんじゃないかという心配は、本当に杞憂らしい。
だけど……そもそもどうして、騎士になろうと思ったのかしらね?
男の子特有の憧れでもあったのかしら。良かったわ、それが適性のあることで。
彼が自身の身を守るためにも、有用な技術なのだし。
「姉様」
ナイジェルの体が離れ、手をそっと握られた。
彼はそのまま、わたくしの前に片膝をつく。そしてこちらを真剣な表情で見上げた。
「……姉様、私を貴方の騎士にしてください」
「ふふ、おかしな子ね。お前はもう、わたくしの騎士なのでしょう?」
「姉様からの……お言葉が欲しいのです」
こちらを射抜く青の瞳に、心臓がどくりと音を立てる。
すごいわ。多くの令嬢たちが憧れる『貴女の騎士になりたい』というシチュエーションね。
相手が義弟なのが、なんとも言えない気持ちになるけれど。
「いいわ、ナイジェル。お前が言葉が欲しいのなら……」
少しだけ深呼吸をする。そしてわたくしは口を開いた。
「ナイジェル・ガザード。わたくしの剣となり、盾となり。わたくしのために戦いなさい。お前は、わたくしのものなのだから」
心の中でこっそりと『やんごとなき我が身を守るためにも使うのよ』と付け加える。これは大事なことだ。
ナイジェルは瞳を潤ませた後に、美しい笑みを浮かべた。
「……私の主人。私は貴女だけの剣です。貴女を守るためだけの盾です」
そう囁いて、義弟はわたくしの手の甲に口づけた。
義弟がずっと欲しかった言葉。
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