義姉との再会(ナイジェル視点)
「わ、わたくしずっとお前に厳しかったわ。不義の子だからと、辛く当たっていたの」
姉様は、そんなことを考えていたのか。
僕……いや、私が姉様を憎んでいる? そんなことはあり得ない。
姉様は本当に善良な人だ。だから『不義の子』に対するほんの少しの八つ当たりにも、ずっと気を病んでいたのだろう。
「……あれがですか? 愛あるお叱りにしか思えませんでしたが」
私の体が大きくなったので、姉様の体は腕ですっぽりと抱え込めてしまう。腕の中に姉様の体温があることが、嬉しくて仕方ない。
少しだけ身を離して指で頬をくすぐると、姉様は肩をびくりと震わせる。
顔が真っ赤になっていて、すごく可愛い。
姉様は昔よりも綺麗になった。清楚な雰囲気はそのままで、少し肉感的になった体が色香を醸し出している。こういう控えめな妖艶さを好む男も多いだろうし、これからは私が気をつけないと。
……本当に可愛い。口づけをしては、ダメだろうか。
「ひゃぅ!?」
我慢ができず、頬に口づけをすると小さな悲鳴が上がる。それも愛おしくて仕方ない。
「もう! 姉弟とはいえ、距離が近すぎだと……!」
姉様は、私の素性を知らないのだろうか。危険なことに巻き込まないために、公爵が話していないのかもしれないな。
本当の素性を告げるべきだろうか。いや……
真っ赤になった姉様の顔をまじまじと見つめる。私が素性を告げれば、姉様はこんな接触をさせてくれなくなるだろう。そしてきっと男女の『適切』な距離しか許してくれなくなる。『義弟』として接触を増やし、私が男であることを意識させてから……素性のことは話すべきなのでは?
「だって、姉様。久しぶりに会えたのです。『僕』は姉様に会えなくて、寂しかったです」
『義弟』の顔で眉尻を下げて言ってみせる。すると姉様はすぐに困った顔になった。
この顔は『僕』のワガママをきいてくれる一歩手前の顔だ。
「もう少しだけ……甘えてはダメでしょうか」
そう言って、返事は待たずにまた強く抱きしめる。すると腕の中の姉様が、仕方ないと言うようにため息をついた。
「……もう、少しだけよ。それと、人前ではこんな甘え方をしてはダメ」
「わかっています、姉様」
姉様の手が私の背中に回って、恐る恐る抱きしめられる。彼女からそんなことをして頂けると思っていなかった私は、少し身を強張らせた。
「ずっと、謝らないとって思っていたの。事情があって我が家に来た子供に、わたくしはなんて酷いことをしていたんだろうって。ナイジェルが気にしていないと言ってくれても、謝らなければいけないわ。……ごめんなさいね、ナイジェル。これからはもっといい姉になるわ」
姉様の体が震えている。私の胸に顔を押し当てて、泣いているようだ。
その綺麗な黒髪をそっと撫でると、小さな嗚咽が上がった。
「姉様は、ずっといい姉でした」
「もう……お前は甘やかしね。そして大きな体になったのに、甘えん坊なのだわ」
「先ほどは、立派になったと言ってくださったのに」
「気の迷いよ」
そう言って姉様はまたしゃくりを上げる。
私は小さな体を抱きしめる腕に、また力を込めた。
……姉様はずっといい『姉』だった。
だけど私は、姉様を『姉』のままにしておくつもりはない。
「姉様……本当に会いたかったのです」
姉様は気づいていない恋慕を忍ばせて、私はそう囁いた。
解けた誤解。




