義弟との再会3
部屋に戻ってから、わたくしは大きな息を吐いた。
――まさか、こんな形でナイジェルと再会するなんて。
心の準備がまったくできていない状況で義弟と会うことになり、わたくしは完全に動揺していた。
……彼への謝罪を、忘れるくらいに。
わたくしったら、本当にどうしようもないわ! それが一番大事なことじゃないの!
ため息をつきながら、図書室へと向かう。学園に持っていきたい本があったのだ。
この図書室とも、しばらくお別れなのね。
図書室に入ったわたくしは、そんな感慨を覚えた。この広い図書室には思い出がたくさんある。出来がよくないわたくしは、自習のために図書室への出入りが多かったものね。ナイジェルが来てからは、彼とここで過ごすことが多くなった。好奇心旺盛な義弟には、たくさんの質問をされたっけ。
「……小さい頃のナイジェルは、本当に質問ばかりだったわね。納得するまでずっと同じことを訊いてくるんだから、本当に困ったわ」
すっかり立派な騎士様然としたナイジェルを思い浮かべながら、わたくしはつぶやいた。
昔の愛らしさしかなかった義弟と、今の義弟が自分の中でなかなか綺麗に繋がらない。
だけどあの穏やかな青の瞳は、変わらないわね。昔と変わらず、綺麗な青だ。
「思い出に耽っている場合じゃないわね」
目当ての本を探し、それに手を伸ばそうとする。しかしそれは書架の上の段にあり、なかなか手が届かない。台を探して持ってこようと思い、手を引っ込めた時……
「姉様、この本ですか?」
耳元で低い声が聞こえて、肩に手を添えられた。そして覆いかぶさるようにして、背後から本へと手が伸びる。頭に厚い胸板が当たり、耳には衣擦れの音が聞こえる。
……ナ、ナイジェルよね。なんだか近いんじゃないかしら!?
「ナイジェル?」
「はい」
名前を呼ぶと返事が返ってきて、わたくしは少しほっとした。
ナイジェルは、わたくしのことまだ『血の繋がりがある義姉』だと思っているのかしら。だからこんなに、距離が近いのね。
「ナイジェル。いくら姉弟だからって、こんなにくっついてはダメよ?」
嗜めるように言って振り返ると、想像以上にナイジェルとの距離が近かった。びくりと身を震わせて一歩後ろに下がろうとするけれど、すぐに本棚に背中がついてしまう。
ナイジェルはその整った顔でわたくしを見つめた後に……心底嬉しそうに破顔した。
「ああ、姉様だ……」
甘く囁かれ、突然抱きしめられる。わたくしは混乱のあまり、言葉を発することもできなかった。
「姉様、姉様」
「ナイジェル、なにをするの」
「……お会いしたかった……」
その言葉にわたくしは目を丸くした。
会いたかった? わたくしに、ナイジェルが?
見上げれば、蕩けたような甘い表情のナイジェルと視線が絡み合う。
心臓がどくどくと妙な音を立てて、なんだか気持ちが落ち着かない。
「……会いたかった? お前は、わたくしを憎んでいるのではなくて?」
「憎んでいる? なぜ? 姉様は私に、ずっと優しくしてくださったのに」
ナイジェルの意外な発言に、目が零れ落ちんばかりに開いてしまう。
……優しい? 誰が?
解けていく感情のもつれ。
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