義弟が護衛騎士になるまでの幕間(ナイジェル視点)
「二年後にウィレミナ嬢が学園に入る時の護衛騎士になりたいだぁ? ダメだダメだ。ウィレミナ嬢の護衛はもう俺に決まってるんだからよ。お前みたいなひよっこに、あの大事な嬢ちゃんの護衛なんて任せられっか」
騎士学校の卒業が間近に迫った頃合いで、『姉様の護衛騎士になりたい』とマッケンジー卿に相談すると……実にあっさりとそう言われてしまった。
マッケンジー卿に、決まっている?
僕はその言葉を聞いて、バカみたいにぽかんと口を開けた。
「なぜ、貴方に」
「当然、適任だからだよ。傍系とはいえ王家の血も引くやんごとなき家の嬢ちゃんだ。それを守るのに最高の護衛をつけずにどうするんだ。他の王族の入学の予定があれば別だったろうが、それもねぇしな」
マッケンジー卿はそう言うと、得意げな視線をこちらに向けた。
彼は僕の姉様への気持ちを知っており、毎日のようにからかわれている。大人げないから止めて欲しいんだけどな。
「それに嬢ちゃんの護衛になれば、無茶な任務も断れるしな。まったく、老体をこき使うのはそろそろ止めて欲しいんだが。お前らがきちんと育たないからだぞ」
ギロリと睨まれ、つい苦笑する。そればかりは申し訳ないと思っているのだが……。規格外のマッケンジー卿と同程度の成長を望むのは無茶というものだ。
僕の教師や護衛をしている数年間、マッケンジー卿はそれを理由に数々の任務を断っていた。
彼ばかりが動いていては、後進が育たない。そして卿自身にしかわからないことだが、さすがに衰えを感じるところもあったらしい。
しかし後進は上手く育っていないらしく。僕が卒業間近となったところで、大量の任務の話が舞い込んでくるようになった彼は近頃少し不機嫌だ。
「こっちはもう五十五なんだ。そろそろ休ませてくれてもいいと思うんだけどな」
たしかにもう引退してもいい年齢なのだが、彼の力はまだまだ必要とされている。
「……それは仕方がないことです。貴方以上の騎士はおりません」
悔しいけれどそれが事実だ。
騎士学校に入学した当初。僕の護衛についているマッケンジー卿を見た生徒や教師は、我先にと手合わせを願い出た。マッケンジー卿は騎士たちの間では憧れの存在なのだ。
そして手合わせの結果は――
『誰一人として』十度の打ち合いにも達しないという有様だった。
騎士学校の程度が低いわけではない。ここには教師も含めて選ばれた者しか居ないのだ。
マッケンジー卿が異常すぎる。
ただ、その一言に尽きる。
そんな彼に、姉様の護衛を任せる。それは正しいことなのだろう。
騎士学校での二年間。僕にも数度刺客の手が及んだ。しかしそれはすべて、僕の目に留まる前に……マッケンジー卿に屠られていた。僕は後からその報告を聞くだけだ。
刺客はあの日傘の女と同じで、正体を辿ってもふつりと手がかりが消えてしまう。これはなかなか頭が痛いことだった。
ともかく。マッケンジー卿はこれで老いているらしい。
若い頃はどのような手練だったのだろう……それを想像すると恐ろしくなる。
強すぎる。まるで敵わない。けれど、この男を越えねばならない。
僕は学校を首席で卒業できそうな今となっても――マッケンジー卿に一度たりとも勝てたことがない。
だけど国に仕えるためではなく、姉様に仕えるために騎士になることを志したのだから……
どうにかして、この男から姉様の『護衛騎士』の任を譲ってもらわねば。
そしてできれば一生、姉様の『護衛騎士』でありたい。
「お前の父は、見込みがあったんだがなぁ」
マッケンジー卿はそう言うと、僕にちらりと視線を向ける。
王弟殿下、そして騎士でもあった父はマッケンジー卿も認める手練だったそうだ。
マッケンジー卿相手に、数度だが土をつけたこともあるらしい。
「……より一層の努力をします」
「ああ、しろしろ。そうでないと困る」
口角を引き上げて笑った後に、マッケンジー卿は沈黙をする。そして再び口を開いた。
「なぁ、ナイジェル。愛しの姉様の護衛騎士になりたいか?」
そんなの、なりたいに決まっている。
「なりたいです!」
「そうか。じゃあ嬢ちゃんが学園に入学するまでの二年間、俺の元で働け。その働き次第では、嬢ちゃんの護衛を譲ってやるよ」
マッケンジー卿の言葉に、僕は目を瞬かせた。
「お願いします! ぜひ働かせてください!!」
僕は一も二もなく、マッケンジー卿の提案に飛びついた。
マッケンジー卿の元での任務は第一級の守秘義務が課せられており、卒業してからの二年も公爵家に帰ることができないなんて……今の僕は知らないのだ。
ナイジェルさんはさんざんこき使われておりました(´・ω・`)
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