義弟との再会2
ナイジェルはわたくしの手に口づけ、その整った顔を上げた。
美しい銀髪がさらりと頬を流れて、青の瞳がわたくしを見つめながら少し眩しそうに細められる。
――義弟が美しすぎるわ。
なんなの、この理想の貴公子の具現化のような美貌は! 昔と変わらず、表情はとにかく薄いけれど。
そんなお顔なくせに体はしっかり逞しくなり、わたくしの頭一つ分は背が高くなっている。これからも伸びていくのかしら。ナ、ナイジェルのくせに!
わたくしなんて、地味なまま成長してしまったのに。
……お胸も大きくならなかったわね。なんなのよ、この差は。
「ど、どど、どうして。お前なの?」
令嬢らしからぬ上ずった声を上げると、ナイジェルにくすりと笑われた。
それが恥ずかしくて、頬がカッと熱を持つ。
「私が、それを望みました」
『僕』だった一人称は、大人らしく『私』に変わっている。そう言えば手紙でも、近頃は『私』だったわね。
「お前が、望んだ……」
「姉様の側に居たいと。そして今度こそは貴女を守りたいと……そう望みました。貴女を守らせてください、姉様」
ナイジェルはそう囁くと、また手の甲に口づけをする。
その言葉を聞いて、わたくしは頭を殴られたかのような強いショックを受けた。
ナイジェルを守ったことは――後悔していない。
だけど、わたくしが彼を守ったことで……罪悪感で彼の将来を歪めてしまったんじゃないかしら。
ダメよ。優秀な彼には他の道がたくさんあるのに、罪悪感なんかで道を決めてしまっては!
それにナイジェルは、彼自身が知っているかは不明だけれど『やんごとない』血の持ち主で――
とにかく、自分を虐げていたわたくしなんかの護衛をするべきじゃないのよ!
「前にあったことに、罪悪感は感じなくていいのよ? わたくしのことなんか放っておいて、自分の人生をきちんと歩みなさい」
「私が望んだことです。後悔なんてしておりません」
少し不快そうにナイジェルは眉間に小さな皺を寄せる。その表情を見てわたくしがまた口を開こうとした時――
「積もる話もあるだろうけど、まずは明日の支度だよ。ナイジェル、学園の構造を説明するから頭に入れておきなさい。ウィレミナはまだ準備があるよね?」
わたくしたちの様子を見守っていたお父様が、そう口を開いた。
「しかし、お父様……」
ナイジェルは少し不服そうに口を開く。その少し拗ねたような表情は昔のナイジェルを彷彿とさせて、わたくしは少しだけほっとした。
「ナイジェル。いい加減可愛いウィレミナの手を離してあげてくれないかな?」
お父様の言葉でわたくしは片手を握られっ放しであることに気づいた。
ナイジェルの手はわたくしの手を包み込むほどに大きくて、傷だらけで決して優美な手ではない。それだけ、騎士としての訓練や任務を頑張ってきたのよね。
わたくしはつい、ナイジェルの手を握られていない自由な手で撫でていた。
深さを感じられるくらいの大きな傷を、そして表面に多くついた小さく細かな傷をなぞる。
「……お前は、頑張ったのね」
昔の義弟の手は、嫉妬したくなるくらいに優美なものだった。それが剣の鍛錬をはじめたあたりから、痛々しいくらいに様々な生傷がついた手になった。そして今では古傷が勲章のように見える、逞しく頼りになる手になっている。
――義弟は、大人になったのだわ。
その事実になぜだか、胸がいっぱいになってしまう。
「立派に……なったのね」
そんな言葉が口から零れる。それを聞いたナイジェルは、その青の瞳を大きく瞠った。
義姉の褒め言葉はなによりのご褒美です。




