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義姉は落ち込む

 ナイジェルが騎士学校に入学してからの二年は、あっという間に過ぎた。

 騎士学校を卒業してもナイジェルは公爵家に戻らず……さらに一年が過ぎようとしている。

 

 いくら忙しいにしてもこちらに一度も顔を見せないなんて。

 やっぱり……わたくしという嫌な女が居るせいかしら。


 窓の外を眺めながら大きなため息をつく。空は鉛のような色の曇天で、雲は分厚く今にも雨が降りそうだ。そんな辛気臭い空模様を見ていると、ますます気が滅入ってくる。わたくしはメイドに命じて、カーテンを閉めさせた。


 騎士学校を優秀な成績で卒業したナイジェルは、マッケンジー卿直属の部下となった。

 そして騎士としての任務を立派にこなしているそうだ。

 最年少で近衛騎士になるのでは……という噂も、そこかしこでまことしやかに囁かれている。

 あの子が世間からの評価を受ける立派な騎士になるだなんて、なんだか不思議だ。

 マッケンジー卿に叩きのめされてボロボロになっているあの子ばかりを見てきたから、噂の主とナイジェルの姿がわたくしの中では上手く結びつかない。


 評判になっているのは騎士としての功績だけでなく、ナイジェルの容姿もだ。

 

 ナイジェルの姿をたまたま目にした人々は『神々しいくらいに美しい』とその容貌を褒め称え、その噂は国中に広まっていた。

 ガザード公爵家の『不義の子』は、年頃のご令嬢方が目を輝かせる憧れの貴公子となったのだ。

 ……昔はナイジェルの陰口を言っていた令嬢たちも、今は頬を染めてあの子の話をしている。わたくしに仲介までお願いしてくる始末だ。

 三年顔を合わせていないのに――仲介なんて出来るはずがないじゃない。


 あんなに小さかったのに……立派になったものね。


 そう思うとなんだか感慨深いものがある。

 そんな『家族』のような感慨を抱くことは、許されないことなのかもしれないけれど。


『姉様、なかなか手紙が書けず申し訳ありません。近頃寒いですがお体の調子はいかがですか? お風邪などひいていないといいのですが……。暖かくして過ごしてくださいね。姉様が体調を崩したりしたら僕は悲しいです。マッケンジー卿にこき使われてなかなか帰ることができず、本当に申し訳ないです』


 今朝届いたナイジェルの手紙を読みながらため息をつく。

 わたくしが彼を庇ったことに負い目を感じているせいなのか……。ナイジェルの手紙は、いつでもこちらの体を気遣う言葉で溢れている。ナイジェルに妙な罪悪感を抱かせているのではと思うと、いたたまれない気持ちになるわね。


 騎士の任務には守秘義務が課されていることが多くある。重鎮であるマッケンジー卿と行動を共にしているナイジェルには、当然重たいそれが課されているのだろう。

 手紙は父を通じてわたくしに渡され、任地などのヒントは一切書かれていない。

 返信は父を通して出来るのだけれど……書くのは当たり障りのないことだけにしていた。騎士学校の時と同じく、守秘義務のある任務に就いた騎士の手紙は検閲される。迂闊なことを書くわけにはいかないもの。


 謝れないまま……季節ばかりが過ぎていくわね。


 今さら謝られても、ナイジェルは困るだけかしら。

 ……わたくしは、どうすればいいのだろう。


「さて、返信をしないと」


 ペンと便箋を用意して、文字を走らせる。


『わたくしは元気です、風邪などひいていないわ。ナイジェルこそ元気にしているの? お前の体は国のものなのだから、病気には気をつけなさい。来年になればわたくしは学園に入学します。任務が忙しいお前とは、なおさら会えなくなってしまうわね』


 手紙の中でさえ、わたくしの言葉には棘がある。

 長年纏ったものはなかなか抜けないものだと、自分の文章を見て苦笑した。


 そう……来年になればわたくしは貴族の学園に入学する。

 学園に通っている間に、婚約者も本決まりになるのかしらね。

 わたくしの婚約者候補の筆頭はテランス様のままだ。このまま彼と婚約し、結婚することになるのだろうか。


 なんだか……いろいろ億劫だ。


 わたくしはため息をつきながら、手紙を封筒に入れた。

姉は手紙の中でもツンです(´・ω・`)

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