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義弟の回想4(ナイジェル視点)

「……大きな、お屋敷ですね」


 連れていかれた屋敷を見て、僕は呆然とした。

 ……なんなんだこれは、城じゃないのか?

 縦は二階のみだけれど、横にとにかく長い白壁の優雅な屋敷。これは何部屋あるのだろう。ここに来る前に通った庭も、最初は庭と気づかないくらいに広かったな。


 ――僕の世界が、変わってしまうのだ。


 威風堂々たる屋敷の威圧感に押されて、僕はごくりと唾を飲んだ。


「本当の家のように、ご自由に使ってください」

「いや、こんなの慣れませんよ」

「慣れますよ。人間は、慣れる生き物なのです」


 公爵はそう言うと、黒い瞳を細めて笑う。この男はよく笑う男だ。その人が良さげな笑顔にごまかされて、騙される人間も多いのだろうな。


「さて。あの扉を通った瞬間から、私たちは『父と子』です。準備はよろしいですか?」

「公爵は敬語を使わない、僕は公爵に敬語のままでいい。各自の呼び方は『ナイジェル』と『お父様』。僕は貴方の『不義の子』で当然それを恥じている」


 小声で示し合わせた内容を復習する。


「はい、よく出来ました」


 公爵は軽い口調で言うと、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。もう『父と子』の演技ははじまっているらしい。

 旅の間僕たちを守ってくれていた護衛が玄関扉を開けると、先触れから主人の帰宅を聞いていた使用人たちがずらりと並んでいた。少し前の僕が着ていたものよりも上等な布地のお仕着せを着て、皆は静かに頭を垂れている。

 ……これが、公爵家の使用人たちか。

 公爵は上着を脱がせに来た執事に、僕を示しながら二言三言と言づける。僕はその様子を、かなり緊張しながら見つめていた。

 執事は僕の前に立つと、綺麗な動作で頭を垂れる。これは、どうしたらいいのだろう。正直とても焦るのだけれど。


「坊ちゃま、お部屋にご案内します。そしてお風呂とお着替えの方を。その後に食事になります」


 この執事が僕のことをどう思っているかは、その静かな瞳を見てもわからない。


「わかりました、よろしくお願いします」

「坊ちゃま。使用人ごときに、そのようなもったいないお言葉使いは結構ですよ」

「わ、わかった。よろしく」


 彼の表情がわかりづらいけれど、ふっと緩む。この人は僕に『悪感情』は抱いていないらしい。


「ナイジェル。食事の前に娘に紹介するね」

「はい、お父様」


 公爵はそう言うと、ひらひらと手を振り去って行く。


 ――公爵の娘。


 僕と同い年と聞いたけれど、どんな子なのだろう。

 公爵は『可愛い、可愛い』と聞き飽きるくらいに言うけれど、親の言うことだからな。無表情で無愛想な僕のことを、僕の両親だって『可愛い』といつも言ってくれたのだし。


 たっぷりの贅沢なお湯で旅の汚れを落とし、用意されていた上質な衣服を身に着ける。旅の間も高価な衣服を公爵はくれたけれど、こういうものにはまだ慣れない。

 メイドに案内されてその後ろについていくと、こちらも着替えを済ませた公爵が待っていた。


「さ、おいで」


 手を差し出されて、少し困惑しながらそれを取る。優しい力で手を引かれるままに僕は歩いた。

 連れて行かれた先は、パーティーが開けそうなくらいに広い居間だった。その中央に……細身のシルエットの黒髪の少女が佇んでいた。

 人の気配に気づいた彼女は、こちらを振り向く。すると豊かな黒髪がさらりと揺れた。


 綺麗な……人だと思った。


 顔立ちは少し地味だけれど、清楚で可愛らしい。そしてちょっぴり……いや、とても気が強そうだ。

 手足は細く、かさばるドレスを着ていても彼女が華奢であることが見て取れる。

 少女は僕を見て――不思議そうに細い首を傾げた。


「ウィレミナ。今日から君の弟になるナイジェルだよ」


 公爵の言葉を聞いて、少女は猫のような瞳を丸くした。


 ――僕にとって、これが運命の出会いだったのだ。

お姉様の第一印象『少し地味』。


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