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義弟の回想1(ナイジェル視点)

 姉様の倒れる姿を見て、僕の目の前は真っ赤になった。


「姉様! 姉様!」


 半狂乱になりながら倒れた姉様に取りすがる。姉様はそんな僕を見て微笑むと……


「今日は、贈り物……できないみたい」


 消えるような声でそう言って、その綺麗な瞳をゆっくりと閉じた。


「姉様! 目を開けてください、姉様!」


 周囲が異常に気づき騒然となる。大人が僕を姉様から引き剥がし、その呼吸や脈動を確認した。そして「医者だ!」と誰かが叫ぶ。僕はその光景を――ただ呆然と見つめていた。


 きっと僕のせいだ。僕のせいで、姉様が。


『父さん』の血を引いている僕が居たせいで……こんなことになってしまったんだ。


 *

 

 昔、昔。と言うほどでもない十数年ほど前の話だ。

 とある国の王弟殿下と男爵家のご令嬢が恋に落ち、仲を引き裂かれそうになって駆け落ちをした。

 二人は元の国から三つ離れた国へと逃げ延び、王弟殿下はそこで平民の騎士として身を立てながら元令嬢と静かに……そして心から愛し合いながら暮らしていた。

 二人はとても仲睦まじく、王弟殿下と同じ銀色の髪と青い瞳の男児に恵まれる。王弟殿下の騎士としての活躍も認められ、家族の日々はこのまま平和に過ぎると思われていたが……


 ある日、それは一変した。


 王弟殿下が隣国との諍いで戦死したのだ。

 元令嬢は息子と二人の生活を支えるために必死に働き――職場だった酒場で暴力沙汰に巻き込まれて、あっけなく死んだ。


 ……たった一人の息子を残して。


 それが『僕』が公爵家に来るまでの人生の話。

 前半の部分は公爵から聞くまで、知らなかったのだけれど。

 父も母も居なくなり、どうやって生きていけばいいのかと思い悩んでいた時に……ガザード公爵は僕の前に現れた。


「私の息子として、屋敷にいらっしゃいませんか?」


『公爵』という高い身分を名乗りながらも僕に敬語を使う彼に……最初に覚えたのは不信感だった。けれど僕を引き取りたいその理由を聞いて、すぐに納得した。


 僕の父が居た国……ルンドグレーン王国の王子は、現在一人しか居ないらしい。


 しかも王子は病弱で、いつ儚くなってもおかしくないそうだ。

 王妃も側室も呪われたかのように女児しか産めず、血の近い者から遠い者まで傍系が不穏な動きを見せつつある。

 そんな傍系の動きを制止するために、女王を据えられるよう法を変えようとの議論も持ち上がったのだが……。いろいろな思惑がある貴族たちは良しとせず、議論が持ち上がっては反発により取り下げられという状況が続いている。

 頼みの綱だった王弟殿下は、独自に彼を探していたガザード公爵が居場所を知った時には……すでに死亡していた。

 しかし……王弟殿下は男子を遺していたのだ。


 そんなことを、公爵は子供にもわかりやすい言葉を選んで話してくれた。


「……どうして王家に渡すのではなく、公爵家に?」


 最初に公爵に訊ねたのはそれだった。その話が本当ならば、僕は王家に渡されるのがふつうだろう。そうでなければ、母の実家である男爵家のはずだ。


「うん、王弟殿下に似て賢い子ですね。きちんと自分で考えられるのはいいことです」


 僕の問いを聞き、ガザード公爵は嬉しそうに笑って頷いてみせる。その柔和な笑顔に反して、瞳の奥はまったく笑ってはいないが。……優しそうな顔をしているのに、なんとも食えない男。その印象は、彼をよく知った今でも変わっていない。


「貴方を王家に渡せば……王子の立場を揺るがせたくない王妃に、一瞬で殺されてしまうでしょう。だから王家に最も血が近い傍系である私が、陛下に貴方の保護を申し出たのです」

「僕の命を盾に王様を脅して、僕を保護できるようにしたということですか?」

「……人聞きの悪いことを言いますね。頭の良すぎる子供というのは可愛げがないですよ」


 公爵は軽く肩を竦めた。恐らく当たらずしも遠からずなのだろう。

 背中を冷たい汗が流れる。面倒なことに……僕はルンドグレーン王国の現状での『第二王位継承者』とやららしい。

ナイジェル視点の開始です。

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