わたくしと義弟の思い出21
「お出かけ?」
「ええ、姉様と二人で出かけたいです。そう、二人だけで」
ナイジェルは妙に『二人で』を主張する。一体なにを考えているのかしら。
「……男の子が楽しいと思う場所への、許可は出ないと思うわよ?」
許可が出そうな場所で思いつくのは、貴族街にある美術館や薔薇園だ。視界が開けているから護衛が守りやすく、守衛なども多い場所。それは安全だけれど、男の子は確実に退屈するだろう。劇場も個室を取るのなら、許可が出るかもしれないけれど……
「出かけられるのなら、場所は問いません」
「そう? じゃあお父様にお伺いを立ててみるわ」
「はい!」
ナイジェルは口元に笑みを浮かべながら返事をする。
義弟はなぜ……わたくしと一緒に出かけたいのだろう。
最後になにか、義姉に引導でも渡したいのかしら。
そんな不吉な予感を覚えながら、わたくしは機嫌良さげに笑うナイジェルを見つめていた。
ナイジェルは危なげなく騎士学校の入学試験に合格し、外出の日取りは合格の報からさらに一週間後となった。場所は薔薇園に決まったのだけれど、ナイジェルは退屈しないのかしらね。わたくしは、薔薇園は好きだけれど。
時間はあっという間に過ぎて、薔薇園へ行く当日……
「姉様、行きましょうか」
灰色のジャケットに黒のベスト、そしてジャケットよりも少し色の濃いトラウザーズを穿いたナイジェルが、わたくしを迎えに来た。迎えに……と言っても当然部屋までなのだけれど。
最近のナイジェルは訓練の日々だったこともあり、動きやすいラフな服装をすることが多かった。その服装でも、義弟が美しいことには変わりなかったのだけれど。
きっちりとした服装をすると、ナイジェルの素材の良さはさらに映える。少し長い後ろ髪を黒のリボンで留めているのも、なかなかいいセンスね。大げさな表現ではなく、道行く女性たちはすべて彼を振り返るんじゃないかしら。
「素敵な服装ね、ナイジェル。よく似合うわ」
「え、あ……そ、そうですか?」
見たままの事実を告げると義弟はなぜか焦る様子を見せた。この子は無表情気味なのもあって、一見しっかりしているように見えるけれど……こういう隙も多いのよね。
「そんなふうに焦らなければもっと良いのだけれど。褒められた時も貶められた時も、堂々としていなさい。人に侮られてはダメよ」
「はい、姉様」
真剣な表情でナイジェルは頷く。そしてわたくしの服装に視線を移した。
今日わたくしが身に着けているのは、赤のワンピースと白のショールだ。派手な色の方が、キツめの顔と黒髪に合うのよね。ナイジェルと違って元が凡庸だから、容姿が大幅に底上げされるわけでもないのだけれど。
「……姉様、とてもお似合いです」
ナイジェルは少し気恥ずかしそうにしながら、褒め言葉を口にする。そして白い手袋に包まれた手をこちらに差し出した。どうやら、エスコートをしてくれるつもりらしい。
「そう、ありがとう」
またこの子はお世辞を言って。まぁいいわ、今日は素直に受け取ってあげる。
お礼を言ってにこりと笑う。そしてナイジェルの手に、自分の手をそっと重ねた。
おデートなのです(*´﹃`*)
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