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わたくしと義弟の思い出18

「マッケンジー卿、わたくしはいい子では……」

「いいえ。ウィレミナ嬢自身が気づいていないだけで、とてもいい子ですぞ」


 マッケンジー卿はそう言って白い歯を見せながらニカッと笑うと、メイドに紅茶のお替りを頼んだ。そしてクッキーをまた頬張る。そんな彼の様子の見ながら、わたくしは口を引き結んだ。


 マッケンジー卿にお優しいことを言って頂く資格は……わたくしにはないわ。


 わたくしは肩を落としながら長椅子に腰を下ろした。すると隣に座ったナイジェルがじっとこちらを見つめてくる。


「姉様。その……」

「な、なによ」


 ナイジェルに呼ばれて、つい身を強張らせる。


「姉様は――」


 ……ナイジェルの口からどんな言葉が出るのか怖い。そしてそれをマッケンジー卿に聞かれるのが、もっと怖い。

 わたくしは咄嗟にナイジェルの口を両手で塞いでしまった。するとナイジェルの大きな瞳が、さらに大きく瞠られる。

 自分の行いが卑怯すぎて本当に情けなくなる。ふだん義弟をいじめていることを、想い人に知られたくないなんて。自分の行いの結果なのだから、ナイジェルになにを暴露されても甘んじて受けるべきなのに……


「ナイジェル、なにも言わないで。お願い」


 懇願の色を含んでしまう声音でお願いすると、ナイジェルはコクコクと何度も頷く。そしてわたくしの手をそっと口から剥がした。


「なにも言いません、姉様。だから……そんな泣きそうなお顔をしないでください」


 優しく囁かれ、青の瞳でじっと見つめられる。ふだんあんなに意地悪をされているのに、それを黙ってくれるなんて。義弟の方がわたくしよりも『いい子』ね。


 わたくし……公爵家の令嬢として相応しくない人間なんじゃないかしら。


 ☆


 一ヶ月、二ヶ月と経ってもナイジェルが剣の稽古で音を上げることはなかった。

 こうまでやる気を見せつけられると、わたくしにだって彼が本気で騎士になりたいのだとわかる。


 ……もしかすると、ナイジェルはこの家を出て行きたいのかしら。こんな義姉が居たら、居心地がいいわけないわよね。


 マッケンジー卿と木剣で打ち合いをしているナイジェルを窓から眺めながら、そんなことを考える。

 騎士学校に入れば二年は家に戻れない……いや、戻らなくていい。騎士学校へ通う者は貴族の学園への入学も免除され、卒業後は騎士宿舎に入ることを選択する者がほとんどである。

 騎士学校に通うことで、ナイジェルは公爵家と関わることをせずに人生を送ることができるのだ。

 社交の機会などに顔を合わせることはあるだろうけれど、そんなものは挨拶だけして終わらせればいいものね。

 彼を公爵家の後継になんて話が出たとしても、その頃にはわたくしは他家に嫁いでいるだろう。


「……わたくしのせいよね」


 重いため息を吐くと、窓ガラスが白く濁る。

 公爵家を出たいのだと……ナイジェルにそう思わせるほどにわたくしは彼を傷つけてきたのだろう。

 今さらながらに、後悔の念が胸に満ちる。

 けれど……してしまったことは二度と取り返しがつかないのだ。

一人で悩んでこじれる姉様なのです(´・ω・`)


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