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わたくしと義弟の思い出2

 父と義弟と三人で、はじめての夕食を摂ることになった晩。


「……本当に、品のない子ね」


 義弟の覚束ないテーブルマナーを目にして睨めつけると、ナイジェルはあどけなく首を傾げた。その顔は無表情だけれど、とっても愛らしい。……悔しいくらいに可愛いわね。なんなの、その大きな目は! くりくりしすぎていてずるいのだけれど! 本当に憎たらしい子!


「カトラリーは外側から使いなさい。それにいつまで、そんな汚れたナプキンを使っているの。汚れている時は、きちんと使用人に取り替えてもらいなさいな。そんなことも知らないの?」


 わたくしの言葉を聞いて、大きくて綺麗な目がさらに大きく瞠られた。い、意地悪を言ってしまったわ。いえ、汚れた愛人の子供なのだもの。これくらい言われて当然よ。それにマナーがなっていないのは、事実なんだし。

 そうよ。この子はわたくしにいじめられて当然なの!


「はは、ウィレミナは厳しいな。ナイジェル、ウィレミナは君と同い年だがマナーの授業や勉強はかなり先に進んでいてね。とても努力家で可愛い子なんだ」


 子煩悩なお父様はわたくしを褒めたあとに、おっとりとした笑みを浮かべる。

 わたくしは一瞬得意げな顔になってしまったけれど、すぐに我に返った。

 それに努力家なんじゃないわ。公爵家の長女として、当たり前のことをしているだけですもの。


「お父様、わたくし当然のことをしているだけですわ」


 つんと顎を反らして冷たく言ってみせたけれど、お父様は「そうか、そうか」とこちらを見つめながら愛おしげに眦を下げるだけだ。

 ……不義の子を連れてきたくせに、どうしていつもの調子でそんな締まりのない顔ができるのかしら。

 そうは思うものの、唯一の肉親であるお父様に嫌われたくないわたくしはその言葉を飲み込んだ。


「……姉様は、すごいのですね」


 義弟の口からそんな言葉が零れた。

 そちらに目をやると、大きな空色の瞳がじっとこちらを見つめている。

 白銀の長い睫毛に縁取られたそれは本当に綺麗で……わたくしは思わず見惚れてしまった。しかしすぐに我に返り、ぶんぶんと頭を振る。


「当たり前よ。お前とは違うの」


 そして憎まれ口を口にした。……なんだか嫌だわ。憎まれ口って言えば言うほど、こちらの品格が落ちていくような気がする。品格が落ちないような、素敵な憎まれ口はないのかしら。


「お父様。この子の出自のこと、教えてもらえませんの?」


 わたくしは内心の葛藤を隠すように、そんなことをお父様に訊ねた。敵のことはちゃんと知らないといけないわ。


「それは、ウィレミナがもう少し大人になってから話すよ」

「……そう」


 そうね。不義の子だ、なんて子供には言えないわよね。


「彼はとある貴族家の生まれなのだけれど……いろいろとあってね」


 お父様はどこか悲しげな表情で目を伏せ、苦さを含んだ笑みを浮かべる。

 義弟は貴族の家の出身ではあるらしい。てっきり平民なのかと思ったわ。

 貴族同士で身分が釣り合っているなら、子供だけ連れて来ずに再婚をすればいいのに。いや、新しいお母様が来てもどんな顔をしていいのかわからないけれど。

 それにもしかしたら、ナイジェルのお母様は亡くなっているという可能性も……それは少し可哀想だわ。お母様が居なくなるのは、とても悲しいもの。


 ――ん? わたくし、なにを考えているのかしら。


 この子がどういう出自であれ、薄汚い不義の子なのよ。

 わたくしの品格が落ちない方法で、たくさんいじめてやるんだから!

ツンデレの片鱗がはみ出している姉。

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