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わたくしと義弟の思い出15

 お茶会から帰った後。ナイジェルはなぜか剣術の教師を付けて欲しいとお父様にねだった。彼のおねだりなんてめずらしいものに目を丸くしつつも、お父様はそれを快諾していたわね。


 ……だけどどうして、剣術なのかしら。


 賢い子だし、武官よりも文官に向いていると思うのだけど。

 だけどこのナイジェルの選択は、わたくしに意外な幸運をもたらしたのだ。

 ナイジェルの剣術の教師として、我が家にやって来たのはなんと……


 わたくしの憧れの方、マッケンジー卿だったのだ!


 ナイジェルがお父様に『絶対に強くなりたいので、最高の教師を』とお願いした結果らしいの。なんてことなの、こんな素敵な出来事が起きるなんて!

 マッケンジー卿が年齢のこともあり、実務を減らしつつあったこと。教師の依頼をした我が家が、王国三大公だったこと。マッケンジー卿自身が、なぜかこの仕事に乗り気だったこと。そんないくつかの要素が重なって決まった人選だったようだけれど……わたくし本当に運がいいわね!

 ナイジェルはなぜか渋い顔をしていたから、マッケンジー卿の功績をわたくし何時間もかけて一生懸命説明したわ。子供の教師にするのは本当にもったいないお方なんだから!


「マッケンジー卿! お久しぶりですわ!」

「ウィレミナ嬢。お久しぶりです」


 屋敷にいらしたマッケンジー卿を出迎えると、彼は口元の皺を深めながら笑みを零した。ああ、いつ見ても素敵な方……!

 厳しい鍛錬の日々を思わせる、赤銅色に焼けた肌。精悍で整ったお顔に浮かぶ愛らしい小皺。白髪混じりの灰色の髪はきっちりと後ろに撫でつけられ、海のように深い青の双眸は老いを目の前にした今も鋭い輝きを放っている。張り詰めた筋肉が見て取れる体躯は、まるで小山のようだわ。


 ……わたくしの理想の騎士様が、威風堂々とそこに立っている。


 その感動で、小さな胸は大きな鼓動を刻んだ。


「ウィレミナ嬢は、またお美しくなられたな」


 マッケンジー卿はそう言うと騎士の礼を取った。そしてわたくしの手を取り、そっと甲に口づけをする。憧れの人に『淑女』として扱われた感激に、頬は熱くなり口元は緩んでしまう。


「まぁ! マッケンジー卿ったら。お口がお上手になったのね」

「本当のことを言っているだけです。子供の成長とは早いものですな」


 彼はしみじみと言った後に、快活な笑い声を立てた。

 好ましい方からの褒め言葉はとても嬉しいものね。……『子供』という部分は、遠くに置いておくわ。


「これからもわたくし綺麗になりますわよ、マッケンジー卿!」

「うむ、楽しみにしておりますぞ」


 マッケンジー卿は立ち上がると、眦を下げながら大きな手でわたくしの頭を何度も撫でる。

 ……完全に『孫』扱いね、なんて思うけれど。いいの、今が幸せだから。

 その時、強い力でぐいと腕を引かれた。

 そちらを見ると、なぜか不機嫌そうなナイジェルがそこに居る。……淑女に急に触れるなんて、よろしくないわよ。


「なによ、ナイジェル」

「マッケンジー卿は僕の教師です。姉様のものではありません」


 ナイジェルは小さく口を尖らせる。この子ったら自分の教師とわたくしが親しげにしているから、拗ねてしまったのね。出来た子だと思っていたけれど、まだまだ子供のようだ。


「わかったわ、授業の時間は邪魔しないわよ。授業の後はわたくしとお茶を飲んでくださいませね、マッケンジー卿!」


 わたくしは自分の容姿の足りなさを自覚しているから、殿方に甘えることが得意ではない。だけどマッケンジー卿には……素直に甘えられる。これは年の差が成せることね。包容力のある年上の男性は、やっぱり素敵だわ。


「わかりました、小さなレディ」


 そんな言葉とともに向けられたマッケンジー卿の渋味のある笑みを見て、わたくしはときめきで卒倒しそうになってしまった。

姉にとってはほんのりとした想い人、弟にとっては恋敵の登場です(´・ω・`)

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