義姉と義弟とその未来3
王宮へ着いたわたくしたちは、ご側室の暮らす別館へと通された。
……なぜ別館なのかしら。エメリナ様を迎えに行くの? それとも、別館の方で婚約の発表があるのかしら。
わたくしはそんなことを考えながら、内心首を傾げる。
別館は豪奢で品のいい建物だ。国王陛下の居室から見える位置にあり、陛下の重たいくらいのご側室への愛情が感じられた。
──これでは、王妃様は正妻として立つ瀬がないわね。
侍従に案内されつつ皆と廊下を歩くわたくしは、ふとそんなことを思ってしまう。愛してほしい人に愛されないのは、悲しいことだ。
その悲しさは……わたくしもよく知っている。知ってしまった。
愛してほしい人に愛してもらえるのは、奇跡なのだろう。
隣に立つナイジェルをわたくしは見上げる。彼もこちらを見ていたようで、青の瞳と視線が交わった。
「姉様、どうされましたか?」
「な、なんでもないわ」
「……本当に?」
頬を熱くしながら顔を逸らせば、ぎゅっと手を握られる。わたくしもその手を握り返せば、嬉しそうに微笑まれた。
「……姉様。悩みがあるのなら、ちゃんと言ってください。なんでも、受け止めてみせますから」
「ふふ、ありがとう」
わたくしはそういいながら微笑んでみせる。
ナイジェルの気持ちは嬉しい。
──だけど、言えないわ。
王妃様の気持ちがわかると思ってしまったなんて。胸の内にある醜い気持ちを、彼に知られたくない。
「姉様──」
「行きましょう、ナイジェル。お父様たちに置いていかれてしまうわ」
ナイジェルの言葉を遮り、わたくしはお父様とマッケンジー卿の背中を追うようにして歩みを進める。ナイジェルはなにか言いたげな様子だったけれど、口を噤んで足を動かした。
侍従が案内してくれた、とある一室。その扉を通って室内に入ると──。
背筋をピンと伸ばして、こちらに微笑みを向ける美女がいた。彼女は──ご側室だわ。本当に美しい方だわ。ひと目見ただけで、心が吸い寄せられそうになる美貌だ。ご側室の隣には、エメリナ様もいる。
エメリナ様の姿を目にした瞬間。心臓がきゅうと痛みを訴える。
わたくしはその痛みに、気づかないフリをした。
「皆様。わざわざ足を運ばせてしまってごめんなさいね」
ご側室はそう言いながら、おっとりと笑う。
「いえいえ。お招きいただき、光栄です。王妃様も来てくださるのだそうですね」
「そうなの、ガザード公爵。本当に、光栄なことだわ」
お父様とご側室の会話に耳を傾けていると、驚愕の言葉が……耳に入った。
久しぶりの更新です。
そしてちょっと修正しました。