【2巻発売記念番外編】姉弟の午睡
久しぶりの更新が番外編になってしまい申し訳ありません。
2巻発売記念の番外編です。
時系列は寮に入ってすぐくらいとなっております。
所用を済ませてから寮の部屋へ戻ると、姉様が長椅子で船を漕いでいた。いや、これは熟睡しているな。
ついつい出来心で、私はここぞとばかりに姉様の寝顔を眺めてしまう。
白く滑らかな頬は優しい丸みを帯びており、小さな唇はぽかりと少しだけ開いている。いつもは感情豊かな黒の瞳は今は瞼の下に隠れており、長いまつ毛が肌に影を落としていた。柔らかそうな質感の黒髪は、窓からの陽の光に照らされて輝いている。
──姉様は今日もお可愛らしいな。そして、とても綺麗だ。
今日は暖かいので、長椅子で寝ていてもお風邪を召すことはないだろう。けれど……
「午後からご用事があるとおっしゃっていたような。そろそろ起こした方がいいだろうな」
惜しい気持ちになりながら、姉様の華奢な肩に手をかける。
「姉様、姉様」
そして声をかけながら優しく肩を揺するが、彼女が起きる気配はない。
唇からは静かな寝息が零れ、その表情は実に安らかだ。深く寝入っていらっしゃるらしい。
「さて、どうしたものか」
途方に暮れながら姉様の寝顔を見つめていると、午後の暖かな光のせいか私も眠たくなってきてしまう。
姉様の隣に腰を下ろし、少しだけと目を閉じる。そして私の意識は、緩やかに眠りの中へと落ちていった。
*
──これは、どういうことかしら。
妙な重みを肩に感じてうたたねから目を覚ますと、見慣れた銀色の頭が肩に乗っていた。
これはどう考えても……ナイジェルよね。
「……ん」
ナイジェルの口から色香漂う吐息が零れて、わたくしの心臓は跳ね上げられた。
本当に……。ど、どうしてこんなことになっているのかしら!?
起こした方がいいのだろうけど、ふだんの疲れが出たのかもしれない。護衛は気を張る仕事だもの。そう思うと、少し起こしづらいわね。午後は図書室に本を返しに行こうと思っていたのだけれど……
「今度で、いいかしら」
耳に聞こえる安らかな寝息を聞いていると、そんな気持ちになってしまった。
側にある優しい温かさを感じながらぼんやりとしていると、眠気がふたたび訪れる。
次に目が覚めた時。時刻は夕刻になっていて、わたくしはナイジェルに膝枕をされていた。
「……!?」
「姉様、起きましたか。寝づらそうにしていたので、勝手ながらこの体勢にさせていただきました」
こちらを覗き込みながら、ナイジェルが優しい笑みを浮かべる。
「そ、そう。ありがとう」
内心大混乱をしながら、わたくしはナイジェルにお礼を言う。
──本当に、どうしてこうなったのかしら!?