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浮かれる義弟とその課題4(ナイジェル視点)

「ナイジェル。どうしてそんなに不服そうな顔をしているのよ」


 エメリナ様は私を睨めつけ、ふんと鼻を鳴らす。

 いつもの通りに尊大なお人だ。これで令息たちには人気があるのだから不思議なものである。見目のよさは七難を隠すのか、エメリナ様の平素被っている猫が本性が見えないくらいに分厚いのか。

 エメリナ様の顔を見ただけで、いつも踏まれている足の甲がじわりと痛んだような気がした。


「……不服なんてことは。お会いできて、嬉しいです。ええ、とても嬉しいですよ。貴女に会うことに、飽き飽きなんてしておりません」


 私はつい早口でそんなことを言ってしまった。エメリナ様は怒った小型犬のように鼻に皺を寄せて怒りを表す。……私の言い方も悪かったが、淑女のやる仕草ではない。


「めずらしく饒舌ね、ナイジェル。私と一緒に行く社交でも、いつもそれくらい喋ってくれると嬉しいのだけれど?」

「……お美しい方の隣は、緊張してしまうもので。体が固まってしまい、上手く口もきけないのです」

「心がこもっていないのにもほどがあるわ。本当に……腹が立つ男」

「まぁまぁ、エメリナ王女殿下。まずはお座りくださいませ。執事にお茶も用意させましょう」


 ガザード公爵があまり友好的とは言えない私たちの会話に割って入り、紐を引いてベルを鳴らす。すると執事が、間を置かずにやって来た。


「旦那様。御用でしょうか」

「紅茶を、三つお願いするよ」

「私は砂糖を多めにして。ミルクもたっぷりよ」

「はい、かしこまりました」


 執事はエメリナ様を見ても、驚いた様子ではない。

 ……案内したのは彼だろうし、当然か。隣室にいるのも知っていたのだろうな。

 エメリナ様は長椅子に座り、執事が持ってきた紅茶に口をつける。そして「なかなかの味ね」と、上機嫌で言った。


「さて……私をデコイにと言うことですが。デュメリ公爵家はどうされるのです」

 

 執事が退室したのを見届けて、私は話を再開した。

 王妃様の背後には、そのご実家であるデュメリ公爵家がいる。

 暗殺者を仕向けるという行為を証拠を残さずやれるのも、デュメリ公爵が手を貸しているからだろう。

 ガザード公爵は中立派で、当然ながら強硬な王妃派であるデュメリ公爵との折り合いがよいとは言えない。両家の間で『穏便』な話し合いの場を持つのは、難しいと聞いていたが……


「あの狸とはもう話がついていてね。近頃の王妃様の行動は……デュメリ公爵家にとっても、頭痛の種だったようだから」

「頭痛の種……?」

「公爵も共謀して、貴方の暗殺の方は企んでいたの。だけど、第二王子の暗殺未遂は……完全なる王妃様の独断」


 エメリナ様はそう言うと紅茶にまた口をつけ、満足そうに吐息を吐く。


「君のような『微妙』な立場だからこそ、見逃されていたことも多々あってね」


 ガザード公爵の言葉に納得する。なんとも業腹な話だが……


「……私の立場は、あってなきがごときものですからね。陛下もできることなら、ご自身の直系を玉座に着けたいのでしょうし」


 私の言葉を聞いて、ガザード公爵は苦笑した。陛下は能動的に私を守るつもりがないのだと、そうも言ったも同然だからな。


「その陛下の子を、王妃様がなんの相談もなく手にかけようとしたものだから。日和ったのよ、デュメリ公爵は」


 乱暴な言葉で言いながら、エメリナ様はくっと口角を上げた。

 ……マッケンジー卿の影響を受けすぎなのではないか、この人は。

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