義姉と義弟のパーティー後2
――ひとつ、ふたつ、みっつ。
クッキーは、みるみるうちに皿から姿を消していく。
ナイジェルは四枚目のクッキーを咀嚼し飲み込むと、満足げに青の瞳を細めた。綺麗な唇を赤い舌が舐め取る。その色香漂う光景を目にして、心臓がどきりと鳴った。
義弟の存在は……いつでも心臓に悪い。
――本当に……綺麗な子だものね。
その美しさを少しだけでも分けてくれたらいいのに。そんな拗ねた気持ちになりながら、彼の口の端についた食べかすを指先で拭う。するとナイジェルは少し驚いた顔をした後に、照れたように笑った。
「ずいぶんと、お腹が空いていたのね」
「はい。恐らく精神的負担のせいですね。マッケンジー卿の訓練の次に疲れたな」
「……精神的負担?」
「…………パーティーは、少し疲れます」
ナイジェルはぽつりと言うと、また口を開ける。食べ盛りであるこの子は、まだまだ食べたりないらしい。
五枚目になるクッキーを差し出すと、ナイジェルは上品な仕草でそれを口にした。
「素敵なお姫様とのパーティーの……どこに不服があるのよ」
「姉様のエスコートではない時点で不服です」
「……まぁ」
そんなことを言われると、『嬉しい』なんていけない気持ちが湧いてしまう。
――ナイジェルには、王家の姫という正統な相手がいる。
それは今回のパーティーで、広く世間に周知された。
わたくしの恋には希望はなく……この浅ましい気持ちは捨てなければならないのに。
『姉』という立場を免罪符にして、ナイジェルの腕の中で過ごしているわたくしは愚かだ。
「それに……姉様とテランス様が親しそうだったので。たくさん妬いて疲れました」
「妬いて……?」
「ええ。姉様は唇を奪われそうになるくらいに無防備ですし」
「あ、あれを見ていたの!?」
未遂だったとはいえ、あんな場面を見られてしまうのは恥ずかしいわ。
うつむこうとしたわたくしの頬に、ナイジェルの手が触れる。
手は頬をしばらく撫でられた後に、指先が唇に押し当てられ……探るような動きで触れられた。
心臓が早鐘のように鳴り、どうしていいのかわからない。
救いを求めるように見つめたナイジェルの青の瞳の奥には――昏い熱のようなものが見え隠れしている。そんな気がした。
「姉様は……テランス様のことを憎からずお思いなのですか?」
「当然嫌いでは、ないわよ。婚約者候補筆頭として、ずっと身近で過ごしてきた方なのだし」
『恋をしているか』と訊かれたら、それは違うけれど。
友情や家族へのものに近い情は彼に対して感じているし、家族になれば穏やかに『愛する』こともできるのかもしれないと思う。
「なるほど。それは……怖いな」
ナイジェルは小さくつぶやくと、わたくしの体を強く抱き込んだ。
「ナ、ナイジェル?」
「こうさせてください、姉様」
母親に縋るような……そんな必死さを感じさせる雰囲気の彼を突き放すことができずに、わたくしはただ抱きしめられるままになってしまう。
恐る恐る手を伸ばして繊細な質感の銀髪を撫でれば、気持ちよさげに小さな吐息が零れた。




