義姉と義弟のパーティー後1
わたくしがモレナール公爵のお屋敷から寮に戻ってしばらくしてから、ナイジェルも帰宅した。
そして――
「姉様、姉様……」
彼は夜会服を着替えもせずにわたくしを抱き込み、そのまま動かなくなってしまったのだ。
抱きしめられることにはいい加減慣れてもきたけれど、時折首筋に鼻先を埋めて匂いを嗅がれたりするのはいただけない。
パーティーから帰宅した後に入浴は済ませているけれど、これはさすがに恥ずかしいし淑女にすることじゃないわ!
「もう! 離しなさい!」
腕の中でジタバタと暴れてみても、義弟の強い力の前にわたくしは無力だ。
それに――こうされるのが嬉しいとも思ってしまうから、始末が悪いのよね。
「……姉様と離れたくないです」
「気分が悪いのでしょう? 看病してあげる約束が……これでは果たせないわ」
「…………看病」
ナイジェルの心が動かされた様子を感じ取り、さらにもうひと押ししようと口を開く。
「ええ。エイリンにもう、準備はしてもらっているの。だけどお前がこの調子だから……紅茶は冷めてしまっているでしょうね」
「温い紅茶も、嫌いではありません」
ナイジェルは一言つぶやくとわたくしの体をそっと放す。
そのことにほっとする間もなく――わたくしの体は義弟に軽々と抱え上げられていた。
「ナ、ナイジェル! なにを……!」
「今日はテランス様の下手くそなダンスのせいでお疲れでしょう?」
「テランス様のダンスはお上手よ!」
「……いいえ、下手くそです。そして姉様はお疲れです」
――どちらかというと、今夜は義弟の所業のせいで疲れたのだけれど。
パートナーを放置する時間を、あんなに作ってしまうなんて……
エメリナ様が穏便に済ませてくださったからよかったけれど、ふつうのご令嬢だったら機嫌を損ねて頬のひとつでも叩かれていてもおかしくない。
ナイジェルはわたくしを抱えたまま長椅子まで行くと、ぼすりと腰を下ろす。そしてまた、わたくしの体を強く抱き込んだ。
「……ナイジェル」
「…………離しません」
「せっかく着飾った素敵な貴公子様の姿なのに。とんだ甘えっ子ね」
「素敵な、貴公子」
「ええ。会場で一番素敵に見えたわ」
「テランス様よりも?」
「――テランス様も、もちろん素敵だったけれど」
――だけど口が滑って、一番と言ってしまったものね。
これが『恋は盲目』ということなのかしら。
「姉様に素敵と言っていただけるなんて……嬉しいです」
ナイジェルは嬉しそうに笑い、わたくしの額に口づけをする。
その動きによって逞しい体がしっかりと密着してくるので、わたくしは恥ずかしくて身を捩った。
「もう! 元気そうだから看病はもういいわね」
「嫌です。してください!」
慌てたようにテーブルに置いてあるクッキーが、皿ごと手渡される。
「ナイジェル?」
「……食べさせてください、姉様」
甘えるように囁かれ、美しい唇を開かれる。
「……仕方がない子」
わたくしはつい頬を緩ませながら、義弟の開いた口にクッキーをそっと近づけた。




