義弟から見た義姉(ナイジェル視点)
薄黄色のドレスに身を包み淡い化粧をしたウィレミナ姉様は、妖精のように可憐で愛らしい。僕はさり気ないふうを装いながら何度も視線を送り、そのお姿を目に焼き付けた。着飾った姉様を見るために、退屈だろうお茶会への参加をしたのだ。ちゃんと見ないと損である。
……姉様に悪い虫がついていないかの、確認もしておきたかったし。
会場にはたくさんの『羽虫』が居るけれど、姉様は歯牙にもかけていない。その様子を見て僕は安堵した。歯牙にも……というよりもただ鈍いだけかもしれないけれど。そんなところも愛らしいと思う。
「ナイジェル様は、本当に麗しい方なのね」
「……光栄です、レディ」
なんたらとかいう令嬢が、頬を染めながら声をかけてくる。僕はそれを適当に流した。
お茶会には着飾ったご令嬢が大勢来ているけれど、僕の目にはただ一人しか映らない。姉様でないのなら、男も女も等しく僕にはどうでもいい存在なのだ。
ちらりと姉様にまた視線を送る。そして僕は、胸の奥の気持ちを含んだ吐息を吐いた。
今日の姉様は、本当に愛らしいな……
いや、姉様はいつだってお可愛らしいのだけれど。
ウィレミナ姉様は派手なお顔立ちではないけれど、清楚な美しさを持っている。夜の闇のような黒髪は豊かで、少しつり上がった黒い瞳はまるで猫の目のようだ。肌は白く、その頬は感情が高ぶるとわずかな薔薇色に染まる。それは白い画布に淡い朱を落としたようで、とても綺麗なのだ。
姉様の手足は華奢で、腰も折れそうに細い。胸のあたりが寂しいのを本人は気にしていらっしゃるけれど、まだ僕らは十歳だ。成長の余地はいくらだってある。……そして『そこ』が成長してもしなくても、姉様は愛らしいだろう。
姉様は見た目だけではなく、中身もお美しい。
ウィレミナ姉様は誇り高く……そして優しい人なのだ。
急に屋敷にやってきた正体不明の『義弟』に思うところもあるだろうに、姉様は僕に日々ご指導をしてくださった。彼女は厳しい人だけれど、僕がどれだけ至らなくても決して見捨てたりはしない。そんな懐が広い姉様のご指導に応えようと、僕は日々研鑽を重ねた。
……まだあまり褒めてはくださらないけれど、いつか『素敵な貴公子になったわね』と姉様に言って頂きたい。そしてできれば、頭も優しく撫でて欲しい。
僕はそのためだけに、努力しているのだ。
姉様のことが……僕は大好きだ。
ウィレミナ姉様は口調が強く、それが誤解を招きやすい。姉様の『友人』が姉様に隠れて『性格の悪い女だ』なんて陰口を言っているのを、僕は腐るほど聞いた。
……そんなお前らの方が、数万倍も醜いじゃないか。そのくせに姉様を貶めるなんて、その喉笛を噛み切ってやりたい。
僕は姉様は大好きだけれど、姉様の友人たちは大嫌いだ。上辺ばかり綺麗にして、内側はドロドロに腐りきっていて……本当に下衆ばかりである。
このお茶会に参加しているのも、ほとんどがそんな『下衆』だ。
「ナイジェル。アバディ伯爵家のリオナ様よ」
話しかけてきた令嬢の名前がわからず視線を送ると、姉様が小声で耳元に囁いてくれた。甘い吐息がふわりと耳にかかって、ぞくりと背筋が震える。
……姉様、愛しの姉様。
姉様は僕のことを、公爵の『不義の子』だと思っている。
面倒がないように僕と公爵が周囲に意図的に『勘違い』をさせていることを、姉様は知らない。
僕たちの間には一滴も血の繋がりもなく、僕が貴女を愛していると知ったら……姉様は一体どんなお顔をするのだろうか。
初のナイジェル視点です。




