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義姉と義弟はパーティーに行く17

「お義姉様の取り合いは、そこまでになさったら?」


 愛らしい声とともに、小さな体がナイジェルに寄り添う。

 ――それは当然、エメリナ様だ。

 エメリナ様はナイジェルの腕に華奢な手を添えながら、わたくしとテランス様に可憐な笑顔を向けた。その息を呑むような美しさに、同性であるわたくしでさえ見惚れてしまいそうになる。


「ナイジェル。お義姉様ばかりじゃなくて、私にも構いなさい? 寂しいじゃないの」

「……申し訳ありません、エメリナ様」

「本当にお義姉様が大好きなんだから……仕方のない人ね。お義姉様は素敵な人だから、気持ちはわかるけれど」


 拗ねた表情でナイジェルに身を擦り寄せるエメリナ様を目にした誰しもが、微笑ましいという様子で頬を緩める。エメリナ様が背伸びをして、何事かをナイジェルに囁く。ナイジェルは少し困ったような顔をしたあとに……彼女の肩を遠慮がちな動作で抱いた。


 ――本当に、お似合いだわ。


 苦い敗北感が、胸中を満たしていく。

 ただの男女としてナイジェルと出会えていたとしても……わたくしではあんなふうにはなれなかっただろう。

 重い息を吐くわたくしの肩を、テランス様がぽんと軽く叩いた。


「お二人は本当にお似合いだね」

「そう……ですわね」

「私たちも、そうなれると嬉しいな」


 そう言ってわたくしの額に口づけようとするテランス様の顔を、大きな手が押しのける。その手の持ち主は、エメリナ様と寄り添っているはずの義弟だった。


「……ナイジェル様、なぜ邪魔をするのです?」


 ナイジェルの手を払い除け、めずらしく不快感を隠さない口調でテランス様が言う。


「自重してくださいと言ったはずです。ガザード公爵家の者として、姉様への不埒な接触は許しません」

「本当にウィレミナ嬢が大好きだね。しかし姉の恋路を邪魔する弟というのは、いかがなものかと思うよ」


 睨み合う二人を目にして、わたくしはうろたえてしまう。

 この険悪な空気は……本当になんなのかしら。


「あ、あの。ナイジェル、テランス様!」


 周囲の人々は、好奇心を隠さない視線を向けている。わたくしは焦りながら二人の間に割って入った。


「なんです? 姉様」

「なんですか、ウィレミナ嬢」


 同時に二人に目を向けられ、うろたえそうになる。そんな気持ちを堪えて、わたくしは口を開いた。


「わたくし、少し風に当たりたくて。モレナール公爵のお庭は、薔薇がとても素敵だと聞いております。連れて行ってくださいませ、テランス様」


 ……ナイジェルとテランス様を、とにかく引き離さないと。

 そんな気持ちで、思考を回転させ言葉を口にする。


「ね、姉様! 私も……」

「ナイジェルはエメリナ様と一緒にいなさい」

「姉様……」


 ナイジェルが捨てられた子犬のような瞳でこちらを見つめる。そんな目で見られると、心苦しくなるわ!


「ああもう、そんな顔をしないの。パートナーを大事にできる男性が……わたくし、素敵だと思うわよ」

「…………素敵」

「帰ったら、たくさんお話しましょう? ね?」

「はい、姉様」


 宥めれば渋々という様子で、ナイジェルはわたくしたちから離れていく。


「困った弟君だね」

「……本当に、申し訳ないと思っていますわ」


 苦笑を浮かべるテランス様の差し出す手をそっと取る。そしてわたくしたちは、庭園へと向かった。


 ――このパーティーの後。

 ナイジェルとエメリナ様の婚約は確実だろうという噂と同時に、ナイジェルは相変わらずの姉べったりであるという噂が流れ……

 エメリナ様に同情の目が向けられることになることを、わたくしはまだ知らない。

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