義姉と義弟はパーティーに行く12
――本当にお似合いね。
――なんて絵になるお二人なのかしら。
――ご側室側とガザード公爵家が結びつくことに間違いはないのか……。これは、情勢が変わるな。
周囲の話し声が耳に触れ、通り過ぎていく。その内容は理解できるのに、なかなか意味が浸透しない。本当の意味での理解を、心が拒んでいるのかもしれないわね。
寄り添う彼らの姿は本当にお似合いで、わたくしには割り込む隙なんてないことを思い知らされる。
「……っ」
心に受けた衝撃によってよろめきそうになるわたくしを支えたのは、テランス様の意外に男らしい腕だった。見上げれば、心配そうな表情の彼と視線が交わる。
「……ウィレミナ嬢。大丈夫?」
「え、ええ。平気です」
「気分が悪いのなら、もっと寄りかかっても大丈夫だから」
「いいえ、大丈夫ですから。あっ……」
大丈夫と言った側からよろめいてしまっては、説得力がない。腰をしっかりと支えられ、テランス様の胸にもたれかかるような体勢になる。鼻先を甘い香水の香りが掠め、温かな体温が剥き出しの肌に伝わった。申し訳なさを感じながらテランス様を見れば、その顔は少し赤い。
――この方も、照れたりすることがあるのね。
そんなことを思いながらテランス様にもたれかかり浅い呼吸を繰り返しているうちに、少しずつ心も体も落ち着きを取り戻していく。もう支えはいらない。大丈夫だと、声をかけようとした時――
「姉様!」
必死な色を纏ったナイジェルの声が耳に届いた。わたくしはびくりと身を震わせ、縋るようにテランス様の服を握ってしまう。
落ち着きのない足音がこちらに近づいてきて、大きな手が肩に添えられた。
触れた手の持ち主に目を向ければ――予想の通りに息を乱したナイジェルが側に立っていた。
その表情は蒼白で、今にも倒れそうな様子だ。せっかく素敵な夜会服に身を包んでいるのに……そんな顔をしていたら台無しじゃないの。
わたくしたちはしばらくの間見つめ合い――
「……ダメでしょう、ナイジェル。パートナーを置いてきてしまっては」
どこまでも可愛げのないわたくしが発したのは、そんな言葉だった。
ナイジェルは倒れそうなわたくしを遠目に見て、心配して来てくれたのだろう。
……なのに、こんなことしか言えないなんて。
「ですが、姉様」
「ナイジェル様。ここはウィレミナ様の婚約者候補である、私にお任せ願えないかな?」
わたくしの体を引き寄せながら言うテランス様に、ナイジェルは不快だと言わんばかりの視線を向ける。
「嫌です」
そして、短く言うとわたくしをテランス様の腕から奪い取ってしまった。
あっという間に義弟に抱きしめられ、わたくしは目を白黒とさせてしまう。
ダメだわ。
ナイジェルの腕の中にいることが……嬉しく思えてしまうなんて。
慣れた体温を感じていると、つい口元が緩んでしまいそうになる。
けれど……視界の端に呆れた顔のエメリナ様や困惑している観衆が映り、冷水を浴びせられたような気持ちになった。
――義弟の将来のためにやるべきことは、ただひとつじゃないの。
深呼吸をしてから、わたくしはこの過保護な義弟を引き剥がさんと気を引き締め直した。




