義姉と義弟はパーティーに行く11
今夜の会場は、モレナール公爵のお屋敷だ。
先代当主様の七十歳のお祝いにと催されたパーティーで、国中の高位貴族たちや王族が招待されている。
馬車から降りたわたくしは、テランス様に手を引かれて屋敷の入り口へと向かう。
その表情は……素敵な貴公子様に手を引かれているとは思えない、憮然としたものになってしまっていた。
「ウィレミナ嬢。そんな拗ねた顔をしないで」
テランス様は鼻歌でも歌いそうな上機嫌さでそう言うと、くすくすと楽しそうに笑う。
「拗ねてなんかいません。自分が……情けないだけで」
わたくしはそんなテランス様を横目に見てから、つんと顔を反らせた。
心の鎧を簡単に剥がされ、ナイジェルの秘密の一端に触れられてしまった。不意を衝かれたとはいえ、そんな自分が情けない。
「そんなふうに落ち込んでいる顔も可愛いけれど。笑ってくれると、嬉しいな」
「誰のせいで落ち込んでいると……!」
「ふふ。私のせいだね」
彼は目を細め、わたくしの手の甲に口づける。
それを見た周囲の招待客からは、小さな吐息が零れた。……食えないところを除けば、テランス様は素敵な貴公子様だものね。
「もっと、私の言動で感情を揺らしてほしいな」
「そんなことばかりおっしゃって」
「心の底から、そう思っているからね。私は幼い頃から、貴女に恋をしているから」
「……テランス様!」
「さ、行こう」
引き寄せられ、自然な動きで腕を取らされる。まるで恋人同士のように体が触れ合うことに驚き身を離そうとしても、腰をしっかりと抱え込まれて離れられない。
「テランス様……!」
責める声音を上げて睨んでみても、彼が動揺する様子はなかった。それどころか、穏やかな笑みを返されてしまう。
まるで、沼に杭を打つような手応えのなさだわ。
……結局は、彼が何枚も上手なのだ。
人前で揉み合うわけにもいかず、わたくしは抵抗を諦め体の力をふっと抜く。
するとテランス様は、嬉しそうに忍び笑いを漏らした。
――こんな調子では……明日には噂になってしまうわね。
テランス様とわたくしが、とても親しげな様子だったと。
そんな噂が立つことに問題があるかと言うと……『世間』に向けての話としてはなんの問題もないのだ。テランス様はわたくしの、長年の『婚約者候補』なのだから。だけど……
そんな噂が『あの子』の耳に入るのは、嫌だわ。
往生際の悪いわたくしは、そんなことを考えてしまう。
エメリナ様とナイジェルが『そういうこと』になるのならば、この恋に希望なんてものはない。
そんなことは……わかっているのに。
「おや、ナイジェル様とエメリナ王女殿下だ」
テランス様のそんな声が耳に届き、わたくしは体を強張らせる。
恐る恐る視線を上げると……遠くに、微笑み合う二人の姿があった。




