義姉と義弟はパーティーに行く8
「まぁまぁ、お嬢様。よくお似合いですよ!」
ガザード公爵家から運び込んだドレスや装飾品でわたくしを飾り立てたエイリンが、楽しそうに声を上げる。
今夜は……わたくしとテランス様、そしてナイジェルとエメリナ様が参加するパーティーだ。
少しは綺麗になっているのだろうかと、淡い期待をしながら覗き込んだ鏡に映っていたのは……。いつもながらに冴えない容姿のわたくしだった。
元が凡庸なのだから、綺麗になるはずもない。
そんなことわかっていたはずなのに……。ふだん使いのドレスでも美しいエメリナ様のことを思い出すと、心は自然に沈んでしまう。
今日のエメリナ様は……一際お美しいのだろう。そしてその隣には、美しく着飾ったナイジェルが立っているのだ。周囲の皆は羨ましそうに二人に目を向け、お似合いだと褒め称えるに違いない。
その光景を想像し、わたくしはため息をついた。
こんなに苦しい気持ちになるくらいなら、恋心になんて一生気づかなければよかったのに。そんな詮無きことを考えて、また小さく息を吐く。
ナイジェルは、エメリナ様を迎えに行くために王宮へと向かった。
『姉様と一緒に行きたいです』
そう言って子供のようにぐずるナイジェルを送り出すのは、骨が折れる仕事だった。だけど……
――義弟に、まだ必要とされている。
必死にわたくしに縋るナイジェルを見ていると、そんな仄暗い安堵が心を満たしたのだ。
わたくしは、醜い。
大切な義弟が、この上なくお似合いの相手と親しくなろうとしている。
それを自分の手前勝手な気持ちから祝福してあげられない……そんな浅ましい女だ。
わたくしのように意地の悪い令嬢は、物語の悪役のように嫉妬に身を焦がし、受け入れられない愛を喚き散らして。罪を犯し断罪されてしまうのがお似合いなのかもしれない。
「本当に……醜い自分が嫌になるわ」
思っていたことがぽろりと口から零れてしまう。するとわたくしの手袋を選んでいたエイリンが目を大きく瞠った。
「なにをおっしゃってるんですか、ウィレミナお嬢様はお綺麗ですよ。テランス様も、着飾ったお嬢様を見てきっと見惚れてしまいます」
「ふふ、そうだといいわね」
テランス様はきっと、真心からの気持ちで褒めてくださるのだろう。そんな彼に自然に微笑み返せるように、心を落ち着けなければ。
「もうすぐ、テランス様がいらっしゃる時間ね」
「そうですね、お嬢様」
「テランス様は、どんなお色が好きなのかしら」
結婚する可能性が一番高い男性なのに、好きな色も知らないことに今さら気づく。
ナイジェルの好きな色なら……すぐに思い浮かべることができるのに。
彼は、黒が好きだと言っていた。『姉様の色だから』と。
「ふだん身に着けていらっしゃるのは、明るいお色が多いですね」
「そう。では、手袋は明るい色を選んでもらえる?」
「わかりました、お嬢様。お召になられている青のドレスに合いますし、この白のものにしましょうか」
エイリンの選んだ白の手袋に手を通し、扇子も明るい色のものを選ぶ。
そうしてパーティーの支度を終えて一息ついていると、ロバートソンがテランス様の来訪を告げた。




