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わたくしと義弟の思い出1

8~10万文字で終わる中編サイズの新連載開始です。

無口系義弟×ツンデレ義姉のラブコメになります。

お楽しみ頂けますと幸いです。

「どうして、お前がわたくしの護衛に……」


 わたくしは混乱していた。


 それはなぜかというと……

 貴族の令息令嬢が、十六歳から十八歳まで通うのがならわしの貴族の学園。

 その入学の前日にお父様から『君の護衛だ』と紹介されたのが……数年ぶりに会う、わたくしがいじめにいじめてすっかり嫌われきっていた『義弟』だったからだ。


 違う、違うの。『誤解』がわかってからは、ちゃんと謝ろうと思っていたのよ。

 だけど謝る機会がなかなかなくて、日々はあっという間に過ぎてしまった。

 義弟のわたくしを憎んでいるであろう気持ちは……そのままにして。


 数年ぶりに会う義弟を見つめる。昔も美しい少年だったけれど、彼は会わないうちにさらに美しく成長をとげていた。

 煌めく白銀の髪。騎士訓練で陽に晒されていただろうに、抜けるように白い肌。見つめていると吸い込まれてしまいそうな、美しい青の瞳。

 冷たさを常に湛えた……絶世の美貌。


 ――ナイジェル・ガザード。

 わたくしのことが大嫌いな、美しい義弟。


 ナイジェルの表情は『相変わらず』動かない。昔から無表情な少年なのだ。

 彼を見つめたまま呆然としていると、ナイジェルが一歩こちらに近づいてくる。反射的に一歩下がると、二歩分距離を詰められてしまった。

 近距離にある絶世の美貌に焦りを覚えてまた一歩下がろうとする前に、手が義弟に握られた。冷淡な表情の義弟の手なのに、それは燃えるように熱い。


「ウィレミナ姉様」


 昔よりも低く、だけど美しい声がなんの感情も込めずにわたくしを呼ぶ。

 いいえ、感情はこもっているのかもしれないわね。わたくしが『憎い』のだという感情が。


「お久しぶりでございます」


 義弟はまるで氷のような無表情でそう言うと――美しい唇を手の甲につける。

 そんなはずがないのに……その口づけは氷柱のように冷たく心を貫いたような気がした。


 ☆


 ナイジェルとの出会いは八年前……わたくし、ウィレミナ・ガザードが八歳の時に遡る。


「ウィレミナ。今日から君の弟になるナイジェルだよ」


 その少年を目にした瞬間。わたくしの時間は止まったような気がした。

 雪のように真っ白な肌。愛らしく整った顔立ち。空のように青く澄んだ瞳。窓からの明かりを弾いて煌めく、芸術品のような白銀の髪。天の神々から授かったような少年が、そこに居た。

 公爵令嬢という身分だけしか褒めるところがないと、お茶会で陰口を叩かれるわたくしの容姿とは大違いだ。わたくしは黒髪に黒目の、平凡な顔立ちの女である。だから彼の前に立っているだけで、自分が恥ずかしい存在になったようでいたたまれなかった。


 ……それにしても、弟とはどういうことだろう。


「弟?」

「そう、事情があってね。彼を引き取ることになったんだ。弟といっても同い年だ。ウィレミナはいい子だから、仲良くできるよね」


 そう言ってわたくしとよく似た父は、どこか苦さを含んだ笑みを浮かべる。

 その笑顔を見て、わたくしは確信した。


 ――ああ。この子は父の『不義』の子なんだわ、と。


 女というのは耳年増なものだ。幼いながらもお茶会に引っ張りだこな、公爵令嬢ともなればなおさらだ。どこぞの貴族が浮気をした、どこぞの貴族が愛人との間に隠し子を作った。そんな話はお茶会に子供を連れてくる親たちの、声を潜めているつもりの噂話から常に入ってくる。


 こんなに美しい義弟なのだもの。

 その母親はきっと美しいに違いないわ。

 きっと……一年前にご病気で亡くなったわたくしのお母様よりも。


 耳年増なわたくしは、そんな想像の翼を軽やかに羽ばたかせた。

 そしてその想像を『真実』だと、強く確信してしまったのだ。

 そのことを……未来に深く後悔するとも知らずに。


 義弟は無垢な瞳でこちらを見つめている。それを見つめ返しながら、深呼吸をした。

 わたくしは貴族の娘だ。ここで取り乱してなるものですか。


「どういう事情があるかは存じませんけれど。承知いたしましたわ」


 唇を噛みしめ、しっかりと前を向いてそう言い放つ。

 ――内心に、ドロドロと煮えたぎるものを抱えながら。

不穏な始まりですがコメディです。

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