7.平穏な日々
私が転生してから3週間。
「シスター・リリエル。シスター・エルフィと一緒に、買い出しに行ってらっしゃい」
「えー。めんどくさ」
「はっ、はい」
シスター・マギーの言いつけで、私達は買い物に行くことになった。
私は軽口を聞き咎められてシスター・マギーにぎろりと睨みつけられ、エルフィは嬉しそうに頷く。
「街、遠いのよね。最近はあんまり率先して行く気がなくなっちゃった」
「そうよね。修道院に来てすぐの頃は、毎日のように出掛けていたのに」
「かつての私の行動力に驚いちゃうわ」
街に行く準備をしながら、私達はそんな益体もない会話をする。
ここへ来て、もう3週間。
最初の7日間で人生に絶望し、
次の7日間で何かを諦め微かな展望を見出し、
そして今やこうして馴染んでしまっているのだから、人間の体の順応力というのも案外、侮れないものだ。
魂が役割に固定化されて、肉体も毎回そのために最適化をするサキュバスとは、根本的に違うのだろうけれど。
「今じゃ修道院の食事にも慣れちゃって。あぁ、元サキュバスの名が泣いちゃうわ」
「ふふ、それでリリエルが平和に暮らせるなら、私は嬉しいよ」
私は大げさに嘆いてみせるが、エルフィは嬉しそうに笑うのだった。
「ねぇ、身体の調子はどう?」
「誰かさんがハッスルしちゃうから、3日に1回は凄く疲れちゃうけど、まぁ、至って健康ね」
そう冗談めかして言うと、エルフィは「も、もう」と赤面するのだった。
やれやれ、すっかり俗欲に染まっておしまいになられて。
いや、まぁ、ぶっちゃけると頭の固いシスター・マギー以外は、割と『そういう空気』を許容している修道女も多いようだった。
人間の世がこれほど肉欲にまみれている中で、あんな厳しい戒律を守るのは、いかにも不自然だ。
当然の帰結とも言えよう。
……まぁ、勿論、あの修道院が私を迎えたという時点で、『何か』特殊な事情はあるのだろうけれど……。
「このまま、何事もなく、平和に……か」
私はポツリと呟いた。
それも良いのかな、なんて思い始めていた。
食事はまずいし娯楽は少ないけれど、あの頃と違って、あまりにも平和だ。淫蕩の限りを尽くしたあの頃は、決して毎日が平和じゃあなかった。
それこそ、ファーザー・ファリックみたいな奴らに命を狙われた事は数え切れないし、殆どは返り討ちにしてやったけれど、命の危険を感じたことも何度だってある。
そのスリルこそが人生!みたいに感じてたあの頃の自分にこんな事を言ったら多分『はぁ?』と一蹴されそうだが、今の私は思うのだ。
「こういう生き方も……まぁ、悪くないか」
エルフィと一緒に買い物して。
シスター・マギーのお小言を受け流して。
信じてもいない神サマにお祈りして。
3日に1回、エッチなことして。
暖かな陽光は、かつての夜の住人にはまだ眩しすぎるけれど。
私は、知らない間にこの生活に満足しつつある事に気付いたのだった。
サキュバス・イントゥ・ザ・シスター、7話です。
日常回。ここから、リリエルの心情に少しずつ変化が。
因みに、この回から『地の文』を『リリエル視点』に変えました。
なんか、書いてて違和感を覚えてきたので。
ここから先、基本的にずっと地の文でも『リリエル』ではなく『私』、って書いてます。
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