迷宮A‐5
ドアが開くと、目の前にはまた廊下。薄暗くて、汚い。
エレベーターから出る。廊下の奥には大きなシャッターが下りて、僕の行く手を塞いでいた。ドアは僕から見て右側に五つ有って、一つはドアノブが付いていない。
一つ目を開ける前に、廊下の隅っこにある病院で使うようなワゴンを調べる事にした。
ワゴンには曲がったナイフや、空の薬瓶、何か赤くてテカテカ光るヒモみたいなモノが絡みついた鋏、釘、ドライバーとかいったガラクタばっかりが満載されていて、役に立ちそうな物は一つも無かった。偶に、飴色の金属の片側が塞がれたドングリ位の大きさの筒や、セフィロトの樹かクリフォトの樹みたいなイラストがプリントされたカードが混ざっていた。
何にも使えそうな物が無かったから、一つ目の部屋に入る。明かりが無い。手探りで壁を伝うと、明かりのスイッチらしきものに触れたから、押してみた。
部屋に薄く明かりが灯る。今までの部屋とは違う綺麗な部屋だった。綺麗なんだけど、四方を囲む壁には昆虫標本が入れられた箱が沢山掛けられている。床にも小さな瓶が幾つか置いてあって真ん中にはマネキンがどっしり構えていて、それに虫取り網が立て掛けられていた。
虫取り網はとにかくマネキンの肩に掛けられた鞄に僕は目が行った。おしゃれな肩掛け鞄と言うよりは、丈夫そうな金具で各部品が留められた古いけどとても丈夫そうな冒険家とかが持っていそうなやつだ。
あれ、良いな。これから持ち物が増えたとしたら今肘からぶら下げているコンビニのビニール袋より容量が有るし、何より肩掛けだから扱い易い。もう散々物をくすねてきたんだから気にするまでも無いだろう。そう思って鞄をマネキンから外して袋の中身を移し替えた。
コンビニで買った雑誌とおにぎりは捨てて、やすりとエレベーターカードと『とがびとのぼうけん』と懐中電灯を残す事にした。
部屋を後にする前に標本を少し観察する事にした。中身はどれもこれもチョウやガみたいな綺麗な昆虫じゃなくて、カマキリとか、カブトムシとか、クワガタとか、瓶に入ってるやつはクモだった。
何か大瀬さんが好きそうだな。
荷物を移し替えるときに、鞄から大きめのナイフが出てきた。これも何かの役に立つだろう。