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ラビリンス  作者: 苔煉瓦
第一章:はじまり、はじまり。
3/11

迷宮A‐1

 あれから起きたのは翌日の昼。休日じゃ無かったらきっと大目玉だっただろう。珍しくお腹が減ったけど、母さんは出掛けていた。仕方ないからコンビニに何か買いに行くことにした。


 住宅街を歩く。コンビニは自宅から近くの踏み切りを超えてすぐの所にある。昼時とは言っても未だ何か食べられる物は残っている筈だ。踏み切りへと至る上り坂の頂から陽の光が下へと差している。


 急な坂を上がり切った直後に遮断器が降りて警報機が鳴り始める。なんでだろう。何時もよりその音が異様に大きく不気味に聞こえた。多分、昼なんかに起きた所為で体調が悪いんだろうと結論付けていた。


 電車が通り遮断器が上がる。線路を超えようとした途端に激しい眩暈に襲われた。驚くと同時に不快感で生唾が上がる。眩暈が収まり、ふと足元の線路を見やると不思議な疑問が脳内に浮かんだ。


「この線路って、越えても大丈夫なのかな」


 何とも奇妙な独り言も呟いてしまった。何故かその何の変哲もない線路は「越えてはならない」とでも言う様な違和感を放っていた。でも此処を通らないとコンビニに行けない。嫌に気を張りながら線路の上を横切ってコンビニへ向かった。


 コンビニへ入ってからは特に異常も無くおにぎりと飲み物を買って店を出た。線路も今度は威圧感を全く放っていなかった。やっぱり体調の所為で変な気分になっただけだ。さっさと家に帰ってしまおう。坂道をやや駆け足で下りて、横断歩道を通って住宅街へ戻った。


 しかし、それから家に辿り着こうと歩けば歩く程違う道へ出る。迷ったのか。まさかとは思うけど、きっとそうなんだろう。こんな近所で迷子になるなんて。携帯で地図を開く。繋がらない。電波は悪くないのに。場所も変えてみる。やはり繋がらない。何回かアプリを閉じてやり直したけど同期もされない。困った。誰かに道を聞こうと思って周りをぐるりと見渡した。誰も歩いていない。通行人も居ない。車の走る音もしない。


 今日は休日なのにどうしてこんなに人が居ないんだろう。そういえば何時もは人の多いコンビニにも客が居なかった。そもそもどうやってあそこで物を買ったっけ。店員さんはどんな顔だったっけ。そもそも店員も居たんだろうか。思い出せない。また眩暈がした。


 眩暈から立ち直った途端、周囲があの線路と同じ異様な威圧感で肩まで浸かる程満たされているのに気付いた。


 怖い。足が竦む。


 早く家に帰らなきゃ。


 オウチガ ドンドン トヲクナル


 声が聞こえた気がした。携帯を操作する。何か使えないのか。ネット、駄目。地図、駄目。電話も駄目。ホーム画面に見慣れないアイコンがあるのを見つけた。


 合唱するように合わせて握られた両手と、三日月みたいな線を描く閉じられた両目が戯画化されたアイコン。<NWmap1.0a>という名称らしい。MAP。地図だ。何時の間にかインストールされていた様だ。開いてみる。アイコンとロゴが表示されたあと、セピア色の背景に白の線で描かれた地図が移り、現在地を示す矢印が表示された。


『地形データ・周辺環境・周辺スポットを走査・同期中…%』


 同期が始まった。ちゃんと動く!これで帰れる…と思ったのも束の間だった。


『10%』


 視界が歪む。背景がコラージュみたいに切り貼りされた写真が剝がれる様に崩れていく。何が起こっているのか分からない。


『30%』


 アスファルト舗装をすり抜けて木の床が浮かび上がって来る。どんどん現実感の無い出来事が目の前で起こっていた。


『40%』


 床から更に壁も生え周囲を囲んで通路を形作る。


『60%』


 空を隠して天井が通路に上から蓋をした。辺り一面真っ暗になって携帯の画面だけが光を放つ。


『80%』


 天井から覆いの付いた白熱電球がぽつぽつぶら下がり、壁から木扉が生える。動作を確認するみたいに白熱電球は点滅を、ドアは開閉を繰り返した。


『90%』


 壁に大量のカビが生え、天井からは長い髪の毛がぱらぱらと垂れ、数か所から水が滴り落ちる。


『100%…同期が完了しました。』


 薄暗い奥の方から何かの呻き声が聞こえた。もう家には帰れないだろう。

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